第54章 新 5月 Ⅴ
「1on1、付き合え。」
『え?』
「いいから、やれよ!」
その口調や言葉は荒々しいが、ボールをポンポンとつきながら来いよ、とアリスを挑発する様なその表情は明るかった。
『手加減してよ?』
「バァーカ、出来ねーよ。」
青峰のその言葉にアリスの中に溜まっていた不安や恐怖にも似た感情がスーッと消えていった。
青峰は変わってはいない、それを目の前に見て感じる事が出来た。
「はぁ?なんで泣くんだよ。」
『泣いて、ないっ!』
「泣いてんじゃねぇかよ。」
『そんなこと、な、いっ…よっ!』
突然泣き出してしまったアリスに青峰は怯む。
その隙を彼女はついて、大きな彼の手からボールを奪い取った。
「ってめぇ、鼻水付けんじゃねぇぞ!」
付けないよ、とズズっと鼻を啜ったアリスは楽しそうに笑った。
街灯のオレンジががった光の下、青峰の一見出鱈目に放っただけの様なシュートがリングを揺らす。
始めこそ勝敗結果がはっきりわかるように印を付けていたが、勝負に夢中になってそれも忘れてしまう程に二人ともバスケに夢中になっていた。
『あーっ!もう、またやられたぁ!』
「ハハハッ!まだやれんだろ?」
もう疲れた、とアリスはゴールの柱に寄りかかりズルズルと座り込んだ。
そんな彼女を見た青峰は、仕方ねぇなとボールを拾い上げるとドカッと隣に腰を下ろした。
『青峰君、やっぱり強いねぇ。』
「当たり前だろぉが。」
お前もだいぶ強くなったな、とボールから離れた大きな手がアリスの頭を撫でた。
褒められた事が嬉しくて、彼女はその手を避けなかった。
仲良く並んでたわいも無い話をして、バスケをして。こんなに簡単な事なのに、何であんなに考え込んで苦しんだのか。
「あのよ、アリス。」
『んー?』
自分から彼女の名前を呼んだのだが、次の言葉がなかなか口から出てこない。
気まずそうに、キョロキョロと不自然に視線を泳がせる。
「…だから、その…。アレだ、だから。…悪かったな。」
『へ?』
「俺の知らない所でお前が俺じゃ無い奴とバスケをしたのが気に入らなかったんだよ。」
そう言った青峰は少し落ち込んだ様な顔をした。それを見たアリスはクスッと笑う。
いつもの強気はどこへ行ってしまったのか。