第53章 新 5月 Ⅳ
「はずだったって…。」
試合中の接触事故だと思っていたが、それは彼の策略のうちだった。
その後、彼のバスケはただひたすらに相手を屈服させるための物となり、アリスの事も忌み嫌う様になってしまった。
「だからって、アイツもそうなるとは限らないだろ?」
「そうっスよ。」
いくら青峰っちでも、ちょっとやられたぐらいでアリスっちを嫌うワケないっスよ、と言った黄瀬に黒子も頷く。
『違うの、そうじゃないの。その時の事を思い出しちゃって、その…。』
また昔の嫌な思い出と同じ事が繰り返されると感じ、咄嗟に青峰を拒んでしまったのだとアリスは言った。
「あの、それのどこにアリスさんが悪い点があるんですか?」
本心からそう思っているのだろう。
黒子の言葉に、悲しそうに、辛そうに話すアリスの雰囲気にのまれてしまっていた火神と黄瀬も「確かに」と呟く。
『あの時、凄く青峰君怒ってた。だから…。』
「それが元彼さんと重なるんスね?」
コクンとアリスは頷く。
だからきっと、青峰も彼の様に変わってしまうかもしれないと思うと、怖くて仕方がないと彼女は涙ぐむ。そしてそれはもう遅いのかもしれない、と呟いた。
実際、青峰は彼女を拉致する様に体育館を出て行った後から一度も合宿へ顔を出さなかった。
「青峰っちが怒ったって、それ、嫉妬して八つ当たりしただけなんじゃないっスか?」
「そうでしょうね、青峰君は独占欲強いですから。」
黄瀬と黒子の言葉に『え?』とアリスは目を大きく開いた。
「それにアイツのサボり癖は今に始まった事じゃねぇだろ?」
だからそんな事で泣くなよ、と火神はポンポンっとアリスの頭を撫でた。
昔から落ち込んで泣いているとこうやって慰めていた。だから今の彼女はそれをされると『子供扱いだ』と嫌がる。
わかっているけれど、それ以外のやり方を知らない。
『…タイガ。』
「アリスっちって泣き虫だったんスね。」
また新たな一面を見つけた、と黄瀬は優しい笑みを浮かべた。
違うと否定したいが、あれだけ黄瀬の前で泣いてしまった後ではとてもそんな事は言えない。
「アリスさんが泣いた理由もわかりましたし、行きましょうか。」
『どこへ?』