第52章 新 5月 Ⅲ
かつての相棒と大好きな彼女が、お互いに思い合って幸せならば、それが一番だと思う。黒子にとっては二人とも大事な人だ。
「黒子、アリス見なかったか?」
「桃井さんも探していますが、まだ戻ってないみたいですよ。」
フロアモップを手にして寄って来た火神は、体育館内へと視線を戻す。
しかしやっぱり目当ての人物の姿は見つけられない。
どこに行っちゃったんでしょうね、と苦笑いを浮かべる黒子に、火神はイライラした顔をしていた。
「あ!いたいた!ちょっと来てくれ!」
慌てた様子で体育館に戻ってきた若松は、黒子と火神を呼んだ。
着替えようと控え室に戻ったら、アリスが倒れていたと言うのだ。
「アリス!」
桐皇の控え室に飛び込んだ火神はロッカーに寄り掛かってぐったりとしているアリスに駆け寄る。
肩を掴み体を譲って彼女の意識を呼び戻そうとすると、小さく声を漏らした。
「アリスさん!」
火神の後ろから黒子も心配そうに彼女を覗き込む。
ゆっくりと顔を上げたアリスのぼんやりとした目の中に、必死な表情の火神と自分が映り込んでいるが、まだ彼女には自分達の姿が認識されていない。
「アリス!しっかりしろよっ!」
『…Have you returned?』(帰ってきたの?)
「はぁ?寝惚けてんのか?」
ペシペシと火神がアリスの頬を叩くと、だんだんと瞳に光が戻って行く。
『あれ、私…、寝てた?』
寝てたよ!と火神は呆れて溜息をついた。
こんの場所で熟睡しちまう程消耗してたのか、と彼女を立ち上がらせようとしたが、どうやらまだ回復していなかったのか、火神に手を引かれた勢いで前に倒れそうになる。
「大丈夫ですか?」
『あはは、ダメみたい。』
「ったく、世話がやかせんなよな。」
黒子に寄りかかる様に立っているのが精一杯のアリスを、火神は抱き上げた。
『ちょ、タイガ!恥ずかしい!』
「なんだよ、歩けねぇなら大人しく捕まっとけよ。」
落ちない様にと無意識のうちに火神の首に手を回してしまう。
おとぎ話のお姫様の様に大切に、とはいかないが青峰よりはマシだろう。
そのまま控え室を出た二人を黒子も追いかけようとし、ふと視線を落とした。