第52章 新 5月 Ⅲ
『青峰君、何回フェイントかけても戻って来ちゃって抜ききれないんだよなぁ。』
ドリブルの速さにも自信あったのに、とアリスはボヤく。
「アンクルブレイクをしかけてみるってのはどう?」
『えー!無理だよ、あんなの偶然じゃなく意図的にやるなんて。』
「コツを教えてあげるよ。」
ほら立って、と赤司に急かされアリスは不安げな顔で立つ。
そしてそこからみっちり赤司流アンクルブレイク術を叩き込まれた。
彼の様に相手の動きが見えるわけではない彼女には、それはとても難しくタイミングを身体で覚えるしかなかった。
それにいくら相手を転ばせても、自分自身がその動きについていけないのでは本末転倒だ。
「ドリブル速度もフェイント技術もハンドリングも申し分無いから、君ならすぐ出来るようになるだろ。」
『…どうだろう。これ、こっちもかなりキツイし…。』
涼しい顔でゆっくりとドリブルをする赤司の前で、アリスはバテバテ状態。
お尻が痛い、と赤司に転ばされ尻餅を何度もつかされた彼女は涙目だった。
それから今日のゲームまで、特別にそれを成功させる為の練習をしていたわけではないが、誠凛の通常練習に参加するだけでも十分に基礎体力アップされ、結果青峰に見事アンクルブレイクを成功させる事が出来た。
『今までに偶然、そうさせる事はあったけど意図的にやって出来たのは初めてだったんだよ。』
「…お前なぁ。」
話を聞いた青峰は、嬉しそうにするアリスとは真逆に呆れているように溜息をつく。
『…ごめんね?』
「あぁ?何で謝んだよ?」
『だって青峰君、怒ってるみたいだから。』
静かな控え室に、ロッカーを思い切り叩いたかのような金属音が響いた。
アリスの顔のすぐ横を真っ直ぐに、青峰がそれこそロッカーを殴る様に手を着いたのだ。
自分を殴ろうとしてやめた、そう感じたのだろう、アリスはそこまで青峰を怒らせてしまったのかと俯く。
「こっち見ろよ。」
左手で顎を強引に持ち上げられ、無理矢理目線を上げさせられた。
その手を振りほどきたいが、まだ疲れていて動けない。
『青みっ?!』
熱い。けれど一気に頭だけは熱が引いていくのがわかった。
体と強引に重ねられた唇は溶けそうになる程に熱い。