第45章 新 3月
『そう、なのかなぁ…。ミスディレクションオーバーフローを自己完結させた感じじゃないかなぁ。』
まぁ誰にでも通じる物じゃないよ、とアリスは笑った。
それを聞いていた黒子は、彼女の説明にはそれを成功させる為に絶対に必要な要素が一つ抜けている事に気が付いた。
アリスの対峙する相手が、彼女に好意的である事だ。
バスケの試合中にボールではなく、自分自身に注意を引く、黒子も同じ様な事をするがその手段が違う。
彼女がやったのはボールよりも思わず目が行ってしまう何かを利用するのではないのだ。
「きっとキセキの世代のみんなには有効でしょうね。もしかしたら赤司君でも…。」
『そうかなぁ?』
そもそもの体格差のせいでいくら努力したところでどうやっても追い付けない壁に阻まれ、それでも諦めず藻搔いた結果、彼女が身に付けたのがあの手から離れないトリッキーなボールハンドリング技術なのだろう。その副産物がノーモーションパス。
見ている人達に一度彼女にボールが渡ってしまったら、それを確実にゴールへと繋げる誰かに彼女が渡すまで、それが離れる事はないと思わせてしまう程の超絶テクニック。
それを彼女は本当に楽しそうにやるのだ。
ストバス特有の相手を挑発する様なプレイスタイルにも良く似ているが、彼女のそれには全く悪意がない。
「つか、アリス!左手!」
『気が付いた?緑間君にアドバイス貰ってから調子いいの!』
ほら、と突き出された彼女の指にはカラフルな色のテープが巻かれていた。
練習になると貼っているなと気が付いてはいたが、緑間に相談していたとは思ってもいなかったらしい。
彼の名を聞いて火神は嫌そうな顔をした。
『今の私のバスケは、みーんなに助けられて支えられてるんだよ。勿論、タイガと黒子君にもね!』
だからかな、楽しくて仕方ない!とアリスは言った。
「変わりましたね、アリスさん。」
「変わったってか、戻ったんだな。」
「戻った?」
初めてアメリカで出会ったアリスは、異国になかなか馴染めなかった自分とは違い、毎日あんな風に笑ってる奴だったと火神は懐かしそうに言った。
氷室やアレックスと出会った後もそれは変わらず、心の底からバスケが好きで思い切りバスケを楽しんでいる奴だった、と。
「…狡いです、火神君ばかり。」