第45章 新 3月
やる気満々の彼女はボールを手にアップしながら、残り20分のゲームプランを考えていた。
「ねぇアリスちゃん、ちょっと火神を困らせてみようか?」
そう言うと相田はアリスにヒソヒソと作戦を伝えた。
結果Bチームは負けてしまったが、帰路につくアリスはニコニコだった。その真逆で火神はイライラしている。
試合としては負けたが、火神はアリスを一度も止められず、一度も抜けなかったのだ。
「聞いてもいいですか?」
『なぁ〜に?』
正反対の二人の間を歩いていた黒子は、あの時カントクはどんな指示をしたのかとアリスに聞いた。
実際、アリスを止めるのは難しいが、あの青峰や黄瀬とやり合える火神なら出来るはずだ。
『ノーモーションパスしか使わない事と、タイガとやり合う時は絶対に視線(め)をそらさない事。』
「はぁ?そんだけかよ!」
もっと凄い指示があったと思っていたのだろう、得意げに話したアリスに食いついたのは火神が先だった。
『名付けて睨み合いで野生の感を鈍らせる作戦、だよ。』
今度青峰君にも使ってみようかな、とアリスは珍しくご機嫌だ。
攻める方向、仲間の位置、ゴールまでの距離など、試合中は自然にプレイヤーの視線は動き回るものだ。
それを一人のプレイヤーに固定して動かさない事、また、相手のそれを自分自身だけに固定させる事がどれだけ難しい事なのか火神は分からなかったらしい。
「アリスさん、それが出来るんですか?」
『相手にもよるけどね。タイガはやり易かったよ。』
それに自分で確認しなくてもこうしたらこう動いてくれるはずだと、お互いに信頼し合っている仲間とだから出来る事だとアリスは言った。
まず、これを成功させるには自分がトリッキーなプレイヤーだと知っている相手である事が大前提だ。
僅かな視線の動きや体重移動から動きを先読みする事をバスケの最中には誰もがやっている。
特に火神は本能的にそれを行う、所謂直感タイプのプレイヤーだ。
だからこそ、彼を対峙したらじっと真っ直ぐに彼だけを見つめる事で相手も目を反らせない状態にし、先を読めなくしたらしい。
それで火神を捕まえたアリスは、巧みなボールハンドリング技術、ノーモーションパスを出す。
「黒子の逆って事か?」