第44章 2月 Ⅲ
だからちょっと大変だった。
しかし、桃井と一緒に過ごした時間は日本に帰って来てから初めての同性の友人と過ごした時間だった。
キッチンがチョコとココアとホットケーキミックスで汚れてしまい、その後の掃除も大変だったけれど、それすらも楽しかったんだとアリスは話す。
「…こっちの気も知らねぇで。」
『いくらさつきちゃんが凄いからって、そこまで心配するのは失礼なんじゃない?』
残っていたマフィンを手にしたアリスは半分に割ると自分が先に口にして見せた。だから残りは食べて、と青峰に差し出す。
仕方なくそれを受け取った青峰は一口でそれを頬張った。
美味しいでしょと言いたげなアリスに、まぁ食える味だなと答えた青峰はニコっと笑った。
それは言葉とは逆に「美味しい」と言っている様なものだ。
「お前、戻るんだろ?」
『練習にはね、青峰君も行ったら?』
最近は毎回ではないが練習に顔を出す事が増えて来たと桃井が嬉しそうに話していた。
どこかチームメイトと距離があった青峰も、そのおかげでだんだんと馴染めて来ているらしい。
『行け』と言って素直にそれを聞き入れる様なタイプではない。
だからアリスには策があった。
桃井が帰った後、残った材料から作れる別のチョコ菓子を作っていたのだ。
ナッツやドライフルーツをチョコと混ぜて固まらせたものだが、適度な大きさに切り分けたそれをラッピングすれば手作りチョコバーになった。
『あのね、これ。さつきちゃんの分も作ったの。友チョコって言うんでしょ?だから届けて欲しいの。』
あと今吉さんと諏佐さんにも、と同じラッピングの施されたチョコバーを紙袋に入れた。
けれど青峰は「俺をパシリにする気かよ」と表情を歪めた。
きっとそうなる事も想定のうち、いや、作戦のうちだったのだろう。
『それでね、これは青峰君に。』
「…は?」
『生チョコ。』
これは全部私の手作りだから大丈夫だよ、とアリスはふわりと微笑んだ。
掌におさまるほどの小さな箱の中には、綺麗に切り揃えられた四角いチョコが並んでいた。
「お前、これ俺にか?」
『そうだよ、青峰君に。』
他には作ってないんだよ、と言った。
しかし、作る材料が一人分しか余らなかっただけとは言わなかった。
受け取った青峰は、あからさまに嬉しそうな顔をする。