第44章 2月 Ⅲ
黒子と火神にはちゃんとラッピングされた別の物も用意してあるのだが、このタイミングでで二人だけに渡したらきっとまた面倒臭い事になるだろう。
残っていたマフィンは3つ。だから今、ここでそれを出してしまった方が良さそうだ。
『日本のヴァレンタイは男の子にチョコレート菓子を配る日、なんでしょ?』
「そうなのか?」
アリスと同じく帰国子女の火神も日本特有のこのイベントには馴染みがないらしく、三人に答えを求める。
「…配るってか、なぁ?」
「僕はあまり貰った経験はありませんので。」
『はい、デザートにどうぞ。』
皿に並んだチョコマフィンには見覚えがあった青峰は、ピクリと表情を引きつらせた。
取り敢えず冷めないうちに食べてしまおう、と広げられたピザ。
いつもならば教室や屋上で昼食を取っている時間を如月家のリビングで過ごす。
なんだかとてもいけない事をしている様な罪悪感と一緒に、ワクワクしてしまう気持ちもある。
「アリスっち、本当にゴメン。」
『気にしないで。まぁサボるのは良くないけどさ、それに付き合ったのは私が決めた事だから。』
ランチを済ませた火神と青峰はTVゲームを始めてしまいそれに夢中になっている、黒子と黄瀬は食べ終わった物を片付けるアリスの手伝いをする。
空になったサラダボウルを持って来た黄瀬は、まだ申し訳ないと表情を曇らせている。
「…僕も謝ります、ちょっと黄瀬君に嫉妬していました。」
「黒子っち…。」
「不思議ですよね、自分一人ではどうしようもなく落ち込んだり、悩んだりするとアリスさんに会いたくなってしまう。」
僕にもありました、と黒子はやっと機嫌を直したらしく黄瀬に笑いかけた。
食器を洗い終えたアリスは、『なにそれ』と黒子の言葉に笑った。
『そんな事言ったら私だってそうだよ。みんなにいっぱい刺激されて背中押されて。だから今の私がいる。』
感謝してるのよこれでもと言ったアリスに、やっと黄瀬も表情を柔らかく崩した。
「アリスっち、俺はそろそろ帰るっス。」
この時間ならもうファンの子達も帰っただろう。
だからと言って学校に行く気にはならないが、放課後のバスケ部の練習には顔を出したいと黄瀬は言った。