第43章 2月 II
嫌なわけないっスよ!とさっきまで落ち込んでいたとは思えないキラキラの目をする黄瀬に、アリスは少し安心していた。
どうやら克哉が撮影していた物らしく、途中で彼がアリスを応援する声も入っていた。
両チームのアップが終わり、試合が始まる。
『日本で言う所の地区予選みたいなものかな。』
「地区予選?それでこのレベル?」
さすがはバスケの本場。
試合テンポが物凄く速い。
プレイヤー個々の技術も格段に良く、恐らくこのまま日本に来たらあっさり全中出場をものにするだろう。
中学バスケだからゴールは低めでボールも小さい。けれど、それだけがこのハイレベルな試合の要因ではない。
『そうだよ。』
「女子でこれって…。」
アリスのいるチームの方がリードしており、その力の差も圧倒的だ。
ポイントガードのアリスは、とても楽しそうにボールを操りチームを引っ張っている。
今のアリスと変わらないトリッキーなプレイはノーモーションからのパス、多彩なフェイントからのドライブ、そしてやっぱりシュートの精度はあまり高くないところまで同じ。
「あれ。これ…アリスっち、左利きだったんスか?」
『バスケの時だけはね。』
利き手が違う事を除けば、パフォーマンスのレベルは今と変わらない様に見える。
しかし、試合を見ていた黄瀬の表情は明るくなかった。
第2クオーターが終わり、インターバルに入ったところでアリスは席を立つ。
空になってしまったカップを手に『おかわりは?』と黄瀬にも聞いた時だった。
来客を伝える甲高い電子音が鳴ったのだ。
『こんな時間になんだろう…勧誘かな?』
ドアモニターのスイッチだけを押したアリスは驚く。
まさか自分達の姿を見られているとは思っていないのだろう三人が小さなモニターに映し出された。
その間にもまた電子音が鳴る。
「知り合いだったスか?」
アリスの後ろからモニターを覗き込んだ黄瀬は「げっ」と表情を歪めた。
そして対応に出ようとしていた彼女の手を捕まえたのだ。
『涼太?』
「出ないでって言ったらどうする?」
はぁ?と今度のワガママを受け入れる気はないとアリスは怒っている様な目を黄瀬に向けた。