第42章 2月
そろそろ制限時間も近い。
集まってしまったギャラリーを全く気にもとめずコートを出て行く三人。
外に出たらところでアリスはクッキーを焼いて来た事を思い出し、二人に渡した。
『味の保証は出来ないけど。』
「手作り?」
『うん。今日のお礼。』
また遊ぼうね、とアリスは手を振り駅へと向かった。
「真ちゃんがマジ惚れすんの、わかったわ。」
ポーッとした表情で高尾はボソッと零した。
電車を降りるとだいぶ日が傾いていた。
この時期は日が暮れるのがはやい。
真っ暗になってしまう前に夕飯の買い物をして帰ろうとアリスは商店街へ向かった。
いつものスーパーでトマトとヨーグルトを買った彼女は家路につく。
「遅かったな。」
『鉄朗くん!』
自宅前にジャージ姿の黒尾が立っていた。
来るなら連絡してよ、と言いながらもアリスはどこか嬉しそうな顔をする。
「もうすぐアレだろ?だからさ。」
『あれ?』
俺に渡すものあるんじゃない?とニヤニヤ笑う黒尾に、何かあっただろうかと真剣に悩み始めたアリスは、記憶の引き出しを一つ一つ開けているようだ。
克哉からの頼まれごとはない、他の親族や黒尾の両親からも特に頼まれた事はない。
交友関係で言うならば、研磨やここで知り合った火神や黒子から何か頼まれているわけでもない。
「…はぁ。お前、マジでやってるのか?」
難しい顔をしたままのアリスに、黒尾はカレンダーを指差した。
『あれ?誕生日だっけ?』
確か11月じゃなかった?と首を傾げたアリスに黒尾は脱力してしまう。
「ヴァレンタイン!日頃お世話になってる大好きな鉄朗お兄ちゃんにチョコの一つもないわけ?」
『あー、ないよ。』
「受験勉強の合間に食べて、って甘い物の贈り物とかは?」
『それがチョコなの?』
日本特有のヴァレンタインのやり方はわからないよ、と苦笑いを返したアリスに、黒尾はそれではダメだと言った。
日本の、特に男子高校生にとって、このヴァレンタインというイベントがどれ程価値のある、どれ程大事な日なのかを語る。
「わかったか?」
『…要は知り合いの男子にチョコをあげればいいのね?』
黒尾の熱説の半分はどうやら伝わったらしい。