第5章 5月 II
『あの緑色の髪の人がチームメイトだった人?』
「そうっスよ!緑間っち!」
『緑マッチ?』
その人も凄いけれど、全体的に見ても秀徳の方が上手だろう。
前半が終わって20点差。
まだ諦めてしまう程の点差ではないが、攻めきれていない誠凛に逆転は難しいかもしれないと思った。
「なんだよアリス、探したぞ。」
誰っスか?と黄瀬の低い声が降って来た。
すっかり試合に夢中になっていて、黒尾が戻って来た事に気が付いていなかった。
「そちらさんこそ。俺のアリスのご友人ですか?」
バスケとは全く関係の無い戦いが勃発しそうになっていたが、それでもアリスはあっけらかんと一言。
『黄瀬君、無視していいよ?』
自分から行きたいと言ったくせに、どうせバスケの試合に飽きてきているだけだから、とアリスは冷たく突き放す。
全く持ってその通りだったらしく、黒尾は不機嫌そうにしながらもアリスのとなりに立った。
「おい黄瀬、お前独り言か?」
どうやら黄瀬もお供がいたらしい。
声を掛けてきた笠松は、大きな黄瀬の向こう側にいたアリスに気が付き小さく頭を下げた。
「違うっスよ、アリスっちと一緒に見てたっス。」
アリスも同じ様に頭を下げる。
そんな二人をニコニコ見ていた黄瀬は彼女に代わりアリスを簡単に紹介した。
しかし、笠松が気にしていたのは彼女よりも向こう側、退屈そうにコートを見ている黒尾だった。
それよりも後半が始まってもなかなか自分達の流れを取り戻せていない誠凛。
どうせ黒尾は飽きてしまって試合をちゃんと見ていないだろうとアリスは横目で見る。案の定、黒尾とばっちり目が合った。
「タイガも黒子君も頑張ってるね。バスケは体育の授業でしかやったことないけど、タイガのあれ、ヤバイんじゃないか?」
バスケどうこうの問題ではない。肉体的な問題だろう。
いくらガタイがいいと言っても、無限に動ける機械人形ではない。
『帰ろうか。』
「えー?!アリスっち帰っちゃうんスか?」
思いもよらない引き止めに黒尾は黒い笑顔を浮かべる。
「アリスは俺とデート中なんで。」
黒尾はそういうとアリスの手をはっきりわかるように掴み歩き出す。
『黄瀬君、またね!』