第5章 5月 II
昔と変わらない所、変わり過ぎて面影もない所、その丁度真ん中の雰囲気の場所、僅か数年でこんなにも変わるものなのか、と驚いてしまった。
会場に着くと沢山のギャラリーが来ており、バスケ人気を改めて感じる。
もしくはそのキセキの世代と呼ばれる選手目当ての観客だろう。
中に入ると眩しい程のライトの下に、彼等が綺麗に整列した所だった。
一般客もいるが、観客席にいるのはたぶんみんなどこかのバスケ部員とその関係者だろう。
「お、タイガだ!おーい、タイガー!!」
恥ずかしい程の大声で叫んで手を振る黒尾に、コート内外から視線が集まる。
これでは仕方なくアリスに付き合って見に行った、なんて言い訳出来なくなるだろうに。
黒尾の声に気が付いた火神は、「クロさん!」と嬉しそうに手を振り返している。
「何だよ黒尾、お前自分の試合はどうした?」
早速知り合いに見つかった。
音駒高校にもバスケ部はあるのだから、当然と言えば当然だ。
そして黒尾は待ってました、とアリスの肩を抱いて一言。
「デートだよ、デート!」
『どうも。』
仕方なく話を合わせる為に挨拶をした。
何だよ彼女いたのかよ、とワイワイ話し始めた黒尾とそのご友人を残し、アリスは試合全体が見える場所に移動した。
「アリスっち!アリスっちじゃないっスか!!」
『黄瀬君、だっけ?』
何で疑問形なんスか?と苦笑いを浮かべる爽やかなイケメン、いや、イケメンな大型犬。
確か彼もキセキの世代の一人だったはず。
黒子経由で連絡先を交換していたが、最初のやりとりをしただけ。
「借りたタオル、持って来ればよかったっスね。」
『別にあれは私のじゃないから。黒子君に渡したらいいんじゃない?』
そんな話をしているうちに試合開始のブザーが鳴り響いた。
バッシュの摩擦音、ボールの弾む音、風を切る様な勢い。
「こりゃ黒子っち、苦しいっスね。」
試合内容は秀徳高校の方が有利に進んでいる様に見える。
自陣から放ったボールが二階席より高く上がり、吸い込まれるようにリングに向かって行くスリーポイントシュートなんて初めて見た。
力技で投げて偶然届く、みたいなものなら何度も見たが、彼のそれはしっかりしたシュートフォームから打ち出される、計算された完璧なシュートだ。