第5章 5月 II
もうすぐ梅雨入り本番だろう。
朝から空は重い灰色の雲で覆われて、洗濯には不向きな休日。
「なぁ、今日はタイガの試合があるんじゃないか?」
勝手知ったる他人の家のリビングで、ゴロゴロ過ごしていた黒尾は言った。
先日の突然の来訪から、休みの度に遊びに来ている。
自分達だってインターハイ予選の最中だろうに、身体を休める為のオフだからと言ってこれはどうなのだろうか。
「お、場所近いじゃん。」
『行きたいの?』
ちょっと意地悪な質問だっただろうか。
スマホで会場を検索しているのだから行きたいと思っているに違いない。
「流石に俺だけではウチの連中に示しがつかないだろ。」
バレー馬鹿の癖にバスケの試合が見たいなんて、どんな心境の変化なのだろうか。
確か今日の試合はまたあのキセキの世代と言われるかつてのチームメイトがいる学校と当たる、と黒子は言っていた。
『ねぇ。』
「なに?」
『キセキの世代って知ってる?』
知ってるよ、と即答された。
まるで知らない事がおかしいと言われているかのよう。
「確か黒子君もそうなんだろ?帝光中バスケ部って有名だぜ。」
『そんなに?』
なんせそのキセキの世代がキセキを起こしていただろう頃は海の向こう。
黒子も幻のシックスマンとか呼ばれていたらしいが、実際にそれを見たことは無いし、今の誠凛高校バスケ部員としての姿しか知らない。
「お!やっぱり行こうぜ。タイガの相手にもそのキセキの世代がいるぞ。」
もう行く気満々らしい。
仕方がない、今日はどうせ洗濯も出来そうにないし言い訳になってやるか、とアリスは席を立つ。
『支度してくるよ。』
「可愛くしてこいよ、デートなんだからな!」
言い訳はアリスとのデートで試合を見に行った、と言う事にしたいらしい。
しかも自分ではなく、アリスから誘われて。
「敵情視察だな。」
黒尾はスマホの画面を見ながら小さく笑った。
会場の体育館は本当に近かった。
駅まで出ればバスで数分。
日本に戻って来てからは学校の行き帰りと近所への買い物、ロードワークで少し走る程度の外出しかしていなかったアリスにとって、これはいい機会になった。