第37章 WC Ⅲ
「あれ、両方出てくるみたいだよ?」
気が付けば紫原もアリスも、もう菓子を食べるのを止めていた。
残り時間四分、点差は十四点の誠凛リード。
しかし、とても誠凛が有利な試合だとは思えない。
再投入された本気の黄瀬の勢いは止まらない。
『タツヤ、私は間違っていたのかもしれない。』
「え?」
『どうしよう、あんなに不安で仕方なかったのに。』
そう言ったアリスは、まるで新しいオモチャを目の前に置かれた子供のようにキラキラした大きな目をしていた。
聞かなくてもわかる、彼女は今、この試合を見て楽しんでいる。
「うん、凄いね。」
「黄瀬ちん、マジだね。」
会場の空気も、試合の流れも、一気に黄瀬が引きつけてしまっている。
ポリポリとまたポテトチップスを食べ始めてしまった紫原はアリスとは真逆に、退屈そうな顔をしていた。
『…ヤバイ、こんなにドキドキするの久しぶり。』
「あぁ、面白い試合だな。」
すっかり会場の観客は試合に引きずり込まれている。
残り三十秒で遂に海常は逆転。
しかし、勝利の女神は海常には微笑まなかった。
海常の選手も、会場の観客達も、全員が海常勝利を確信したラスト4秒。
試合終了ブザーの後に聞こえたボールがネットを揺らす音。
僅か数日の練習で身につけた黒子のシュートが勝敗を決めた。
笠松に支えられてはけていく黄瀬は、今日は隠れずに泣いていた。
『帰っちゃうの?』
「あぁ、タイガが会いたいのは俺じゃないだろうからね。」
それじゃ、と氷室と紫原は観客達が移動を始める前に会場を後にする。
まだ一人、熱気冷めないその場にアリスは残っていた。
観客も選手も居なくなって静まり返った会場、決して立ち入らないと決めていたはずなのに、ふと気がつくとそこに立っていた。
コートの真ん中に立って目を瞑れば、あの熱気が蘇る。
そして、その真っ只中にいるのは彼等ではなく自分自身。
眩しいライト、観客の声、バッシュのスキール音、息遣いやボールのバウンド音。
「…こんな所で何をしているのだよ。」
『えっと、緑間くん?』
なんで疑問形なんだ?と声を掛けた緑間は眉間に皺を寄せた。まるで声を掛けたこちらがおかしいみたいではないか、と。
「試合に出たいとでも思っていたのか?」
『そう、かもしれない。』