第36章 WC II
今まで何度も海常の試合を見たが、今日の彼等はどこかチグハグなプレイになってしまっている。
『!…涼太。』
息を荒げコートに膝をついてしまった黄瀬は、ただ疲労しているだけには見えない。
何か、どこか違和感を感じる。
「信じてますから!黄瀬君!!」
会場に黒子の声が響いた。
その声に、黄瀬は顔を上げる。
『涼太ぁぁあ!私も信じてる!!』
立ち上がって彼に声援を送ったのは黒子だけではなかった。
アリスもまた、二階席の柵から落ちそうになる程に身を乗り出して叫んだのだ。
「…黒子っち、アリスっち。」
アリスの声に灰崎は舌舐めずりをしながらそちらを向く。
そしてイヤラシイ目で、彼女に向かって中指を立てた。
「見た目に群がってくるバカ女と一緒にすんなよ、彼女は絶対に触らせねぇ!」
立ち上がった黄瀬の目付きが変わった。
そして放たれる緑間の様な見事なスリーポイント。
吸い込まれる様に決まったそれは、本家のそれと比べても見劣りしない。
『涼太!凄い…。』
まるでそこに緑間と青峰、紫原が一気にコートにいるかのよう。
その圧倒的な実力差は、灰崎の狂気を更に煽ってしまった。
『涼太ぁ!』
試合終了のブザーが鳴る。
痛めた足を思い切り踏まれたが、最後のダンクはしっかりと決めきった。
決着がついてすぐに、黄瀬は黒子達が観戦しついた方へと拳を向けた。
向けられた黒子と火神も、嬉しそうにそれに答えて拳を伸ばした。
「アリスっち〜!勝ったっスよ〜♪」
『もう、心配させないでよね。』
すっかりいつものテンションを取り戻した黄瀬は、アリスに向かって両腕を広げた。
それはまるでハグを求めるかのようで、二階席の彼女は『バカ』と笑った。
勝利を喜ぶ海常の関係者を灰崎が射殺すかのような目で見ていたが、彼等はそれに気が付いていなかった。
「頑張ったんスよ、ご褒美欲しいっス!」
笠松にいつまでもはしゃいでんじゃねぇ!と連れて行かれる黄瀬を見送ったアリスは、静かに会場を後にした。
「先帰ってろ、さつき。」
「え?ちょっと大ちゃん?」
それとほぼ同じ、青峰も桃井をその場に残し会場を後にした。
白熱した二試合を堪能した観客達がその興奮覚めやらぬまま、会場から出てくる。