第36章 WC II
アメリカ仕込みにしては、火神やアリスとは全くプレイスタイルが違う。
誠凛はだんだんと陽泉の鉄壁の守りを崩し始め点差を一桁まで前半終了時には縮めていた。
『黒子君?』
黒子がチラッとこちらを見た気がしてアリスはハッとする。
声が聞こえたわけではないが、黒子に呼ばれた様な気がしてじっとしていられない。
『パパ、私ちょっとトイレ!』
「全く、アリスはレディだろ?」
そう言う事は言わず行きなさいと、克哉は苦笑いを浮かべた。
アリスは急いで下へ、選手控え室に続く道を走った。
彼女の感じた声は勘違いではなかったらしく、向こうから黒子が走ってくるのが見えた。
「よかった、アリスさん。」
『どうしたの?』
「これを。」
黒子はそう言うと握られた右手を差し出した。
受け取ったアリスは、目を見開いた。
それは幼い自分がいくら羨ましがって欲しがっても触らせてすらくれなかった、火神の宝物。
『どうして、黒子君がこれ。』
「火神君は勝つ覚悟を決めたんです。」
そうか、とアリスは泣き出しそうな顔で笑った。
そして、それをしっかりと握り締める。
『ありがとう黒子君。これは私が預かります。だから、勝って。』
「勿論です!」
お互いに強く握った拳を合わせた。
夏に氷室に再会した時はただ、ただ、怖かった。
逃げたと図星を突かれ何も言い返せなかった。
けれど今ならちゃんと向き合う事が出来る。
確かに自分は逃げた。
けれど、逃げた先でも結局は大好きなバスケを捨てられなかった。
だからもう逃げない。火神が覚悟を決めて戦うなら尚更、だ。
「よかった、再開に間に合ったな。」
『大丈夫だよ、もう誠凛は負けない。』
アリスはそう言うと強く拳を握っていた。
なんとなく、誠凛の誰か、恐らく黒子とでも会ってきたのだろうと想像は安いが、なら何故、その言葉と口調とは真逆に彼女は泣きそうな顔をしているのだろうか。
「お前、震えてんぞ?」
大丈夫か?とそっとアリスに手を伸ばそうとした青峰は、その手を止めた。
試合の流れを真っ直ぐに見つめているアリスのその目には溢れないギリギリの涙が溜まっていたのだ。
紫原がオフェンスにも参加する様になり、いよいよ試合は陽泉が一方的に押している。