第35章 クリスマス
『いいえ、青峰君とちょっと取引をしただけです。』
アリスはクスクスと笑う。
まさか青峰に黒子と自分がシュートを教わっているとは二人は思わないだろう。
ふと、壁の時計へ視線を向けたアリスは小さく『そろそろかな』と呟いた。
ランチボックスは使い捨ての物なので空になったら捨てて下さいと言うと静かに席を立つ。
「ありがとうな。」
『いえ、では。お二人も受験、頑張って下さい。』
アリスはそう言うと二人に笑顔で頭を下げた。
順調に進んでいれば、誠凛の試合がそろそろ終わる頃だろう。
きっと彼女は誠凛が勝つ事を信じているに違いない。
「今吉、あの子と親しかったのか?」
「まぁ、そやね。えぇ子やなぁとは思っていたんやけど。」
ここまでされるとホンマわからんな、と今吉は苦笑いだ。
妖怪サトリでも、今の彼女は読めなかったらしい。
確かに誠凛に負けたあの日、彼女に青峰を頼むと言ったのは自分だった。
恐らくはこの場所を教えたのは桃井だろうと安易に想像出来たが、まさか手作りの差し入れまで持ってくるとは。
「なんや吹っ切れた感じやなぁ。」
「吹っ切れた?」
「そや、前は帰る場所がわからへん迷子みたいな子やったのに。」
今はちゃんと自分がどこに帰りたいのか、どこへ帰るのかわかってお散歩してるって感じやね、と今吉は言った。
もう、今の彼女には自分が付け入るスキは無くなっていた、と。
流石に自習室で食べるわけには行かず、今夜はこの辺りで勉強は切り上げて寮に戻ろう、と荷物を片付けた。
「あ!アリスちゃん、こっち!」
『さつきちゃん、お待たせ。』
校舎を出た所で桃井と合流したアリスは体育館へは寄らずに校外へと向かって行く。
そんな後ろ姿を自習室の窓から今吉は見送っていた。
「今から会場に?」
『ううん、帰るよ。明日も朝から練習だし。』
「練習?」
なんの?と首を傾げた桃井に、あれ?とアリスも首を傾げた。
てっきり青峰から聞いて知っているものだと思っていた。
駅までの道のりで、黒子の試合の合間時間に青峰と三人でバスケをしている事を話す。
「えー!ズルい!」
『さつきちゃんも来たら?』
「行く!もう、大ちゃんってば大事な事は何も話してくれないからっ!」