第31章 12月 Ⅲ
かつての黒子のチームメイトで、キセキの世代と呼ばれる彼等を束ねていたキャプテン。
思っていたよりも小柄な赤司にアリスはどこかで見た事があるような気がして、彼の顔をじっと見つめてしまう。
黒子にクイクイっと腕を引かれ我に返ったアリスは、急いでハンカチを出し火神の頬の手当てをしようと手を伸ばした。
『大丈夫?』
「あぁ、かすり傷だよ。」
火神は傷を拭いアリスに心配するな、と笑いかけた。
「場違いな人、と言ったのは訂正しよう。君は確か、如月アリスさんだよね?」
『そうですけど…?』
「一年ぶりだね。まさか君にここで会えるとは思ってもいなかったよ。」
君なら僕達の集合に参加しても構わないよ、と笑いかけた赤司はついさっき火神に向けた表情とはまるで違う。
しかし、よく見ると左右で少しずつ色の違う瞳には冷たさがあった。
『あの…。』
トン、トンとゆっくり階段を降りアリスに近付いてくる赤司に、彼女は本能的に後退る。
「君は覚えていないかな?僕達はロスで会っているんだよ。」
『…セイ君?』
「そう呼ばれるのも久しぶりだね。」
本当はそれよりも前に顔を合わせているが、緑間以外はそれを覚えてはいないらしい。
赤司が言っているのも、全中制覇の後に短期留学した時の話なのだろう。
不機嫌そうに赤司を見ていた青峰はスクッと立ち上がるとアリスを庇うように前に立った。
「もう用がねぇなら俺は行くぜ。」
「あぁ、本当は試すつもりだったがその必要はなくなった。」
赤司はそう言うと改めてアリスを見る。
「君とはまたゆっくりと話がしたい。」
赤司はアリスにだけ手を振って歩って行ってしまった、重く張り詰めた空気だけを残したまま。
そんな中でもモサモサとお菓子を頰ぼっていた紫原は「思い出した!」とマイペースにニコニコ笑いながらアリスに近付く。
そして 「食べる?」と手にしていた菓子を差し出した。
「夏にも会ったね〜。相変わらず可愛い!」
『迷子さん!』
また会えたね、と嬉しそうに笑う紫原にアリスもつられて微笑んだ。
差し出された菓子を一つ手に取ると、いただきます、と口に入れた。
「試合が終わったらまた一緒に食べようね〜。」