第31章 12月 Ⅲ
紫原はそう言うとバイバイ、と子供の様に手を振って歩いて行ってしまう。
アリスも同じ様に手を振り彼を見送る。
「アリスっち、大丈夫っスか?」
なんか大変な所に居合わせちゃったっスね、と黄瀬は苦笑い。
本当は試合前にアリスに会えた事が嬉しくてたまらなかった。
けれど今はそれを外に出していい雰囲気ではない。
『大丈夫だよ、ありがとう涼太。』
「いいんスよ。」
試合前に会えてよかったっス、と黄瀬は微笑むとまたね、と彼にしてはあっさりとその場を離れた。
「赤司の事は気にすることはないのだよ。」
黄瀬に続きその場を離れようとしていた緑間は足を止め、そう言った。
『…なんか来ちゃいけなかったみたい。』
アリスのボソッとこぼした一言に、そんなことはないと言うように、彼女の頭をポンポンと撫でてから青峰も何も言わずにその場を去ってしまった。
「アリスちゃん、何者?」
黄瀬や青峰と親しい事は何となく気が付いていたが、赤司や紫原、緑間とも面識があり彼等にも認められているかの様だった事に降旗はただ、ただ、当たり前の疑問を抱きそう聞いた。
「僕も驚きました。アリスさんはやっぱり強者を惹きつける力があるんですね。」
『そう、なのかな…。』
困った様に笑うアリスを見た火神は、話を反らさなければならない気がしてわざとテンションを上げる。
「そんなことより、俺達はまずやる事があんだろ?」
あと数時間もすれば初戦開始時間だ。
火神の言葉に黒子と降旗もそうだった、と表情を変えた。
『みんな頑張ってね!』
私は観客席から見てるからね、とアリスに見送られ3人は控え室へと向かって行った。
開会式の後、昼食を取りに一旦会場を離れていた観客達も続々と集まって来ている。
ウインターカップ初戦は、誠凛対桐皇。
インターハイ準優勝校と新設校でありながらもメキメキとその実力を上げて来ている注目校。
観客席達の試合への期待も大きい。
頑張ってね、と言ったけれど改めて観客席に立つとどちらかだけを応援する事は今のアリスには出来ない。
コートを半分に分けて双方がアップをしている様子を見て、アリスは自分の中途半端な気持ちに押し潰されそうになっていた。