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君と僕とが主人公LS

第31章 12月 Ⅲ


けれどそれをどちらも口にはしない。


「俺が居ない間、泣かないでいられたのか?」

『当たり前でしょ!黒子君と毎日特訓して、私もだいぶ動けるようになったんだこら!』


二人を乗せたタクシーの運転手は、微笑ましくやり取りを聞いていた。
会場前に停まり、アリスは先に降車するとその会場の大きさに目を輝かせる。


「可愛い彼女の応援があるんだ、兄ちゃん、頑張れよ!」

「うっす!」


運転手の応援の言葉に大きく頷いた火神は料金を払いアリスを追う。
きっとアリスは一緒に控え室に行こうと誘ってもまた断るはず。だから一緒に行けるのは入り口まで。


『あれ、黒子君と降旗君じゃない?』

「ホントだ、アイツ等どこ行くんだ?」


行ってみようよ、とどこか楽しそうに言うアリスに仕方ないなぁ、と言いながらももう少しこの時間を過ごしたいと火神も二人の後を追う事にした。
体育館脇の小さな広場に繋がる階段に彼等は向かっているらしい。
試合前にそんな所で何をするのだろうか、と後をつける二人はこの後遭遇するキセキなど想像もしていない。


「悪いが君は帰ってもらってもいいかな?」

「なんだよ、連れねぇな。仲間外れにすんなよ。」


緊張で震えている降旗の肩を叩き、ただいま、なんて呑気に言った火神は階段の上に立つ赤司を真っ直ぐに見ていた。
キセキの世代のプレイヤー達が集まっていると気が付いた火神は、アリスを遠ざけて自分だけが先に来た。


『もう!タイガ!置いて行かないでっ!』


はぁはぁと肩で息をしながら走って来たアリスは、赤司が火神に本気でハサミを向けた瞬間を目の当たりにしてしまった。


『…何、してるの。』


目を真ん丸くしてその驚愕のシーンに固まってしまったアリスを、黄瀬と緑間は心配そうに見る。
しかし、彼女には黒子がすぐに寄り添い「大丈夫ですか?」と声を掛けていた。
その間に赤司は自分の前髪をさっき火神を切りつけたハサミで切っていた。
何かとんでもない事を口にしているが、驚きのあまり、アリスの耳にはそれが上手く届かない。遠くでぼんやりと音が反響しているみたいだ。


「…さん、アリスさん!」

『…あ、うん。黒子君、あの人は?』

「彼が赤司君です。」


噂には聞いていた。
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