第31章 12月 Ⅲ
ウインターカップ開会式。
大きな体育館には中継用の大きなビデオカメラが設置されている他にも沢山のカメラが並んでいた。
二階の観客席には応援の幕が所狭しと掲げられている。
全国から集まった強豪校、そしてその応援に集まった人達。
しかし、そこにはアリスの姿はなかった。
『パパもタイガも遅いなぁ…。』
一ヶ月のロス留学から火神が帰国するのに合わせて、クリスマス休暇で克哉も一時帰国すると連絡があった。
だからアリスは開会式よりも彼等を空港まで迎えに行く事を優先したのだ。
乗っていたはずの飛行機はとっくに到着しているのに、まだ二人の姿が見えない。
何かトラブルに巻き込まれているのでは?と不安になってくる。
「long time no see. My cute girl♡」
(久しぶりだね、私のアリス♡)
引いて来た荷物を放ったらかしに、突然抱き着いてキスの嵐。
『Alex! I missed you!』
(アレックス!会いたかった!)
「お前ら、いきなりそれかよ!」
アリスに抱き着いて離れないアレックスに、火神は呆れ顔。
「アリス、わざわざ来てくれたのかい?」
『パパ!』
流石のアレックスも父と娘の久々の再会を邪魔する事はなく、けれどどこか残念そうな顔で自分から離れてしまったアリスを見ていた。
ハグとキスの挨拶は空港だから堂々と出来ること。
克哉から離れたアリスは火神にも、と飛びついた。
『おかえり!』
「ただいま。」
いい子、いい子、とアリスの頭を撫で髪にキスを落とした火神にはそっと彼女を離した。
タクシー乗り場まで四人で歩いて来たが、ここからは行き先が違う。
克哉とアレックスは荷物を自宅に置きに行くと言う。最初はアリスもそちらに一緒に行くつもりだったが、克哉に「行っておいで」と背中を押された。
これから年明けまではずっと一緒に居られるのだから、今日しかない大事な試合を見届けておいで、と。
火神も荷物と部屋のキーをアレックスに預け、アリスと一緒にタクシーに乗った。
『開会式、始まっちゃったよ?』
「あー、やっぱマズかったよな。」
『リコさん、きっと怒ってるね。』
たった一ヶ月だと言うのに随分変わったとお互いに感じていた。