第30章 12月 II
『私、お昼食べ損ねちゃって。』
お腹空いちゃったと言うアリスに、しゃーねーな、と笑いながら青峰は電気をつけた。
明るくなっただけで、どこか苦しさを含んだ様な空気だった室内が変わる。
「テキトーに座ってろ。なんか飲み物取ってくる。」
大きく伸びをして青峰は部屋を出て行く。
前にここに入った時は青峰を起こしに来ただけだった。
改めて室内を見れば、ごちゃごちゃと置かれている雑誌の大半はバスケ関連のものだったり、ボールが転がっていたり。簡単な筋トレアイテムやバッシュの箱が並んでいる。
バスケが好きなんだとわかる部屋だ。
露出度の高い女性が写っている雑誌がある事は気が付かなかった事にしておこうとアリスは思っていた。
「わりぃな、オフクロいねぇから。」
『お仕事?』
「昨日から親父と旅行。」
クリスマスイヴをハワイで過ごす!ってはしゃいでやがったと溜息交じりに言った青峰は、ホットコーヒーを二つ手にしていた。
『じゃあ一人で留守番?』
「まぁな。」
『ご飯とかちゃんと食べてるの?』
両親不在の男の部屋に上がっていると聞いて最初に出る言葉がそれかよ、と全く色気のないアリスに思わず笑ってしまった。
しかし、思えばそれがアリスらしい魅力の一つかもしれない。
ちゃんと彼女と向き合って話をするきっかけも、一人暮らしの彼女の家にまだお互い名前も知らない関係だったにも関わらず、招かれ風呂まで借りた時だった。
『試合前なんだし、ちゃんと食べなきゃダメだよ?』
「テキトーに食ってるから大丈夫だろ。」
そのテキトーがダメなんだよ!とアリスは持って来たパンの詰められた箱をテーブルに広げながら言った。
二人で食べるには多過ぎる。両親の不在を知っていたら半分ぐらいにしたんだけど、とアリスは苦笑い。
「旨そうじゃん。」
『でしょ!本当はサラダとかも一緒に食べて欲しいけど。』
インスタントやジャンクフードで済ませてしまう食事よりはマシかな、とアリスは言った。
「…なぁ、アリス。」
『なに?』
「お前、バスケ好きだろ?」
『好きだよ。』
並んでベッドに寄りかかりパンを貪る。
青峰はウインナーの入った惣菜パンを、アリスはクルミが練り込まれたパンを千切りながら食べていた。