第29章 12月
コート外から全体を見ていたカントクからは、ただ伊月をアリスがすり抜けただけにしか見えていなかった。
むしろ、なぜ伊月が止められなかったのかと疑問に思ってしまうほど、アリスを彼が故意的に抜かせた様にも思えてくる。
「ミスディレクションの応用です。僕ではなくアリスさんを消しました。」
「それって…!」
「はい。ミスディレクションの効果が切れてから出来る新技です。」
もう既にミスディレクションの仕組みは相手に知られてしまっている。
しかも次の対戦校である桐皇にはかつての黒子の相棒である青峰がいるのだ。
仮にバニシングドライブが通用したとしても、すぐに破られてしまうだろう。
「つまり、黒子君に相手の視線を向けさせて味方を見えなくさせるって事ね!」
「はい。この場では否が応でも目立ってしまうアリスさんで成功しました。」
凄いじゃないか!とみんなが一斉に笑顔になった。
その日の帰り道、アリスと黒子はミスディレクションオーバーフローの成功祝いにとマジバに寄っていた。
バニラシェイクで乾杯をした二人は、仲良く一つのポテトをシェアして食べる。
「アリスさん、ありがとうございました。」
『やめてよ、私は楽しかったんだから。』
それならよかった、と黒子は微笑む。
街はすっかりクリスマスモードに染まっている。
街灯にもクリスマスカラーの装飾品が飾られたり、イルミネーションが付いていたり。
寒い中だが行き交う人達もどこか浮かれている様に見える。
今までならばそんな人達のか中に自分も混ざっていたんだろうな、とアリスは思っていた。
『もしさ、時間が出来たらクリスマス会やりたいね。』
「いいですね!」
『同時に祝勝会になったら最高だね!』
ウインターカップ開幕は12月23日。
そしてその日の午後には桐皇との試合がある。
「そうですね、絶対に笑ってクリスマス会が出来るようにしましょう!」
うん!とアリスは笑った。
賑わう街を抜け住宅地へと入った二人の前を2号がチョロチョロと歩く。
すっかり通り慣れてしまった道のり。もうすぐアリスのアパートが見えてくる。
「そういえば、最近青峰君とはどうですか?」
『どうって。温泉以来会ってないよ?』