第29章 12月
『みんな頑張ってるよ。黒子君の新技は凄いんだから!』
ちょっと興奮した口調で黒子の新技について話す声に、こんな気持ちはおかしいと思いながらも嫉妬してしまう。
けれど、黒子のそれも今の自分も、全てはウインターカップ優勝のため。
『でね!明日から私も練習に参加するの。』
「バスケ部のか?」
『そう、あくまでも黒子君の新技練習の時だけだけどね。』
カントクにも承諾貰ったんだよ、とアリスは嬉しそうに言った。
もう少し話したかったが、アリスにそろそろ体育館に戻るからと言われ電話を切る。
「…はやく会いてぇな。」
ベッドにゴロッと横になった火神はそのまま眠りについた。
それから数日、誠凛男子バスケ部に混ざるアリスの姿はすっかり馴染んでいた。
しかし、黒子の新技はまだ一度も成功していない。
先輩チームを相手に火神無しでこの点差で済んでいるのは、アリスのトリックプレイが役立っている事も大きい。
試合形式のこの練習を見ていたカントクは、アリスのその独特の技術に見れば見る程感心してしまう。
彼女が仮に男子だったら素晴らしいポイントガードになっていただろう。
『うまくいかないね。』
「先輩達はそもそも引っかかり難いんだと思います。」
でも、なんとなく掴んできました、と黒子はタオルで汗を拭いながら言った。だから次は成功させる、と。
『楽しみ!』
再開するわよ!とカントクに呼ばれコートに戻る。
そして始まる後半戦。
そもそも普段から一緒に練習をしている先輩達にはミスディレクションの効果は薄い。
まして火神の居ない今、黒子が目立ってしまうのは必然だ。
「なっ?!」
ドリブル技術は確かに抜群のセンスがあるアリスだが、今のは明らかにそれとは違う。
まるで黒子のバニシングドライブを使われたかのよう。
「うそ、だろ…。」
抜かれた伊月は何が起きたのかわからない、と呆然と立ったまま。
「今のはアリスちゃんの技なのか?」
『ううん、黒子君の新技。』
ちゃんと私、消えました?と言われ伊月は大きく頷いた。
どういう事だ?!と練習を中断して部員達は集まった。
その中心はアリスと黒子。
二人はやったね!とハイタッチをする。
「何があったのか説明してくれる?」