第28章 11月 Ⅲ
「何をだよ?」
慎ちゃんがアリスちゃんを気にする理由だよ、と言われた緑間は顔を赤くした。
「慎ちゃんも誰かを好きになったりするって知ってさ、俺はちょっと安心したよ。」
高尾の言葉を否定出来ない。
その時はこの感情が何なのかわからなかったが、ずっとまた会いたいと思っていたことは確かだ。
彼女の方は全く緑間を覚えてはいないが、彼は違う。
全中三連覇を果たしたあの夏から、ずっとアリスを追いかけていたのだから。
「なんか羨ましいよなぁ。初恋の子に再会出来るとかさ。」
「人事を尽くしている結果なのだよ。」
俺も明日からおは朝占い見よっかな、と高尾は笑った。
『お待たせ!』
会計を済ませたアリスの手にはバッシュの他にも小さな袋が二つ。
「ぜーんぜん待ってないよ。」
『ありがとう!あのね、これ。』
アリスは持っていた小さな袋を高尾に差し出した。
もう一つを緑間にも渡す。
なんとなくそれを受け取った二人はこれは?と顔を見合す。
『買い物に付き合って貰ったお礼。』
リアカーにも乗せて貰っちゃったしね、とアリスは今日一番の笑顔を浮かべた。
気に入ったバッシュを買えた事が相当嬉しかったらしい。
「お礼なんていらないのだよ。」
『いいじゃない、気持ちだから貰ってよ。』
受け取れないと言う緑間に、「まぁまぁ」と高尾が仲介する。
これ以上付き合わせては申し訳ないから、とアリスはここからは一人で帰ると言った。
それならせめて最寄駅まででも乗せて行くと言った高尾だったが、アリスは丁重にそれを断る。
「気をつけるのだよ。」
『うん、ありがとう。緑間君と高尾君も気を付けてね。』
またね〜と高尾は手を振りながら自転車を漕いで行く。
それに答える様に手を振り二人を見送ってからアリスは駅へと向かった。
新しいバッシュを買ったらそれを履いてバスケをしたくなるのは仕方がない事。
自宅までの電車に揺られながら、黒子との居残り練習の時にさっそく履いてみようと考えていた。
今夜、もう一度家で履いて自分の足にピッタリする様に靴紐を結んでおこう。
そんな事を考えているうちに車内アナウンスはアリスの降りる駅が近付いている事を伝えた。