第28章 11月 Ⅲ
『あ!どうせなら外履きも買えばよかった。』
玄関の鍵を開けながらの独り言。
お店の場所は覚えているから、また行ってみようと思うだけで楽しい気分になる。
今日、バッシュを買いに行ったのは火神がアメリカへ行ってしまった淋しさを紛らわせる為でもあった。
荷物を部屋に置いたアリスは、夕飯の支度をして一人テーブルについた。
同じ頃、自宅に帰った緑間はアリスに渡された袋を開けていた。
中身は緑色と白のストライプ柄のマフラータオルだった。
せめてお礼のメールぐらいしておいた方がいいだろうとスマホを手にするが、アリスの連絡先は登録されていない。
こんな事になるならば、高尾と一緒に連絡先を交換しておけばよかったと後悔してしまう。
「俺もまだ、人事を尽くしてなかったか…。」
はぁ、と溜息をついてしまう。
緑間は仕方なく、高尾にアリスの連絡先を教えて欲しいとメッセージを送った。
それを受け取った高尾の方は、同じくアリスから貰ったオレンジと白のストライプ柄のマフラータオルを首に巻き、ご機嫌に鏡を見ていた。
充電器に繋いであるスマホが音を立てて主人を呼ぶ。
「ったく、だから素直に交換しとけばよかったんだよ。」
緑間からのメッセージを読みクスクス笑ってしまう。
こういう事は本来ならばアリスにも許可を得てするべきなのだろうが、今回に限っては教えても大丈夫だろう。
世話の焼けるチームメイトに使われる事に慣れてしまっているのもあるが、今回はいつも以上にそんな気持ちになるのはあんな堅物な緑間が彼女を特別視している事に気が付いたからだろう。
本人は気が付いていないかもしれないが、彼女を見ている緑間の目はとても熱っぽく柔らかい。
「初恋は実らないって言うけど。」
送信完了のメッセージを見て後は緑間次第だとスマホを置いた。