第28章 11月 Ⅲ
よく堂々と乗っていられるなぁ、とアリスは横目で緑間を見る。
「どうかしたのか?」
『緑マッチさん、平気なのかなって。』
「その呼び方はやめるのだよ。」
俺は緑間慎太郎だ、と不機嫌に名乗った。
『緑間君?』
「なんなのだよ?」
『なにって、今の呼び方ならいいのかなって。』
二人のやり取りにもうダメだ!と高尾は吹き出してしまう。
普段、バスケにひたすらストイックで、恋愛や女の子に全く興味のない様な緑間が妙に緊張しているのがおかしくてたまらないらしい。
「アリスちゃんあんまり慎ちゃんをからかわないでやってよ。」
『からかう?』
「高尾!余計なことは言わなくていいのだよ。」
緑間と高尾の話がなんなのかわからないアリスは首を傾げた。
「そう怒んなよ〜。」
そう言いながらもまだ笑っている高尾を緑間は睨む。
「高尾、無駄話をしている暇があるならしっかり走るのだよ。」
「はいはい。アリスちゃん、もうすぐだからね!」
リアカーに乗せられ数分。
着いたスポーツ用品店はさっきまでアリスが見ていた店よりも規模は小さいが、高尾の言っていた通り、商品のラインナップはレディースが多く可愛らしいデザインの物が多い。
バスケ用品だけではなく、その他のスポーツ用品やパーカーやバッグなども並んでいた。
『可愛い!』
「だろ?」
うん!と大喜びでバッシュコーナーを見るアリスを緑間と高尾も楽しそうに見ていた。
カラフルなデザインや花柄のワンポイントが付いたもの等、迷ってしまう。
「どんなのがいいとか希望があるの?」
『履き心地がいい、可愛いのがいいかな。』
じゃあこれは?と高尾アリスの隣に立ち彼女の背丈では届かない高さに置かれていた一足を取る。
白ベースに桃色の靴紐、踵と側面にハートを四つ葉型に並べた模様がついていた。
試着用の椅子に座りそれに足を入れたアリスは、その場でピョンピョン飛び跳ねて感触を確かめる。
「よく似合うのだよ。」
『そう?』
緑間は表情柔らかく頷く。
値段も予算内で、サイズもぴったりだったことからアリスはそれを買う事に決めた。
会計をしているアリスを緑間と高尾は店の外で待っていた。
「な〜んか俺、わかっちゃったな。」