第28章 11月 Ⅲ
空港まで火神を見送りに行った帰り道。スポーツ用品店に寄ったアリスは、バッシュコーナーをウロウロしていた。
履き心地で選ぶとデザインがイマイチ、デザインで選ぶと履き心地がイマイチ。
折角新しい物を買うのだからこれだ!という一足にしたい。
「あれ〜アリスちゃん?」
『高尾君!』
オレンジ色のジャージは秀徳高校のもの。
偶然だね、と人懐っこい笑顔の高尾の後ろにはイマイチ感情が読めない緑間がいた。
二人はいつも一緒なんだね、とアリスは笑う。
「いつもじゃないのだよ。」
「そうそう、練習がある時ぐらいだよ。」
今日も練習後で緑間のテーピングを買い足しに寄ったと高尾は言った。
「アリスちゃんはおつかい?」
『ううん。自分のを買いに来たんだけど。』
なかなかいい物が見つからないんだ、とアリスは苦笑い。
バッシュを?と少し驚いた様な顔。
「バスケやるの?」
『そうなの、リハビリみたいなものだけどね。』
「レディースならこの店より揃ってる所あるぜ?」
どうせ暇だし付き合うよ、と楽しそうに言ってくれた高尾にアリスは甘える事にした。
店を出ると停められていた自転車にリアカーがついている不思議な乗物が目に飛び込む。
まさかそれに乗るのか?と戸惑っているアリスをよそに、緑間は当たり前にリアカーに乗り、高尾は自転車に跨がる。
どうしたものかと困っているアリスを見て高尾はクスクス悪戯に笑った。
「なにしているのだよ、はやく乗るのだよ。」
『え?』
自分が座って空いたスペースを指差して促してくる緑間、アリスは助けを求める様な目で高尾を見た。
彼は声を必死に我慢しながら大笑い。
「そりゃそうなるよな〜。」
だったらはやくなんとかしてくれ、とアリスは心の中で叫ぶ。
「大丈夫、アリスちゃん軽そうだし。」
『乗れってこと?』
「走って行くつもりなのか?」
これは覚悟を決めるしか無さそうだ。
小さく溜息をついたアリスは、よし!とリアカーに足をかけた。
よいしょ、と乗り込み緑間の隣に座る。
それを見届けた高尾は「行くよ!」と地面を勢い良く蹴り自転車を走らせた。
リアカーの乗り心地は見た目ほど悪くはない。
けれどすれ違う人達の視線が痛い。