第27章 11月 II
「あんた、桐皇の!」
今吉さんだよ、とアリスは小声で教える。
「てーっきりアリスちゃんはウチの最強エースとデキてるもんやと思っとったんやけど。」
やっぱり自分トコのエースがえーんやね、と笑う。
『だから、私は別に!』
「あぁ。そうだ!コイツは俺達んだ!」
『タイガ?』
何を言い出すの?とアリスは驚きの顔をする。
「俺達?なんで複数形やねん。」
「桐皇には、青峰にはやるつもりはねーよ!」
火神の言いたい事をすぐに理解した今吉は、クツクツと声にならない笑い声をあげる。
「まあそれでえぇんちゃう?」
それに、と火神を見た今吉は珍しく目を開けていた。
「仲良しバスケの誠凛さんにはよう似合ってるで。」
その冷たい視線と言葉に、アリスは思わず身を震わせた。
今吉の腹の中が真っ黒なのは前々から気が付いつはいたが、ここまであからさまに敵意や悪意をこちらが感じる程に出す人ではないと思っていた。
むしろ、相手を確実に嫌な気分にさせるけれど怒らせない、表層的な善人だったはず。
けれど今の彼は極々普通のただの嫌な奴。
『今吉さん、なんか焦ってます?』
アリスの言葉に今吉の眉がピクっと動いた。
「何ゆーとんねん、ワシが何に焦んねんな。」
声色も態度もいつものそれだが、何か違う。
「アンタの言う最強エースが心配なんだろ。」
「んなわけあるかい!青峰はどんな時かて最強や。」
火神と今吉の間に小さな雷がスパークしている。
『今吉さんって、何だかんだ言って凄く青峰君を大事に思ってるんですね。』
後輩思いのいい先輩なんだ、とその場を打ち壊した上に自分の色に見事に一瞬で塗り替えてしまうアリスの言葉と表情。
「アリスちゃんにはかなわんなぁ〜。」
ステキな先輩がいて青峰君も幸せですね、とアリスはふわりと笑ったのだ。
爆発寸前にまで張り詰めていた空気が変わり、今吉もアクを抜かれたと力無くソファーに座った。
「実際、ホンマにどないなっとんねん。」
『何がです?』
恋人でもないっちゅうならさっきのはなんなんや?と言い今吉に、アリスは何を思ったのかスクッと立ち上がると彼に抱き着いた。
それには火神も驚き目を丸くする。