第26章 11月
けれど、どこか殺伐としていたチーム内の空気は彼女の存在が緩めてくれた。
コートに向かうみんなを見送ったアリスは、客席へと向かう。
「あれ?アリスちゃんやないか。」
『今吉さん!ってか、桐皇のみなさん?』
若松が引きずっていた大きな袋がモソモソと動いている。
「アリスちゃんもやっぱり来てたのね!」
「そりゃそうやろ、これで決まるんやさかいなぁ。」
コート内では両チームがアップを始めていた。
だから今日もこんなに観客が多いのか、とアリスは会場を見回した。
「青峰っち、桃っち!!」
コートを挟んだ向こう側には海常高校の面子が席を取っている。
「アリスっちー!こっちにおいでよー!」
見なくても黄瀬が手を振っているのはわかった。
「誰が行かせるかよ。」
大きな袋の中身は青峰だった。
黄瀬に手を振り返そうとしていたアリスの肩を抱いて自分の隣に強制的に座らせた。
「こんな試合、興味ねぇんだ。このぐらいいいだろ?」
『ごめん、青峰君。今日はちゃんと誠凛の一員として来てるから。』
「なんやアリスちゃん、正式に決めたんか?」
そう言うわけじゃないんですけど、と自分でも上手く説明出来ないが今日だけは、誰かと一緒にではなく、誠凛のみんなと一緒にいなければならない気がした。
『じゃあ、また。』
アリスはそう言うとその場から逃げる様に離れた。
いつもは客席のなるべく後ろの方で見ているアリスだが、今日は誠凛ベンチのすぐ後ろに向かう。
『みんな、頑張ってね!』
手を伸ばせば届く距離。
こんなに近くで応援するのも、されるのも初めてだ。
だから余計に今日の試合が特別なんだと感じてしまう。
試合開始のブザーが鳴る。
『っ!なんなの、これ。』
酷いラフプレイ。
それがわかっていて木吉は身体をはっている。
バスケットなんかじゃない、まるで格闘技でも見ているかのよう。
けれどみんなが我慢して、みんなはちゃんとバスケで戦おうとしている。
だからここで自分が怒ってしまうのは場違いだ。
声を出して応援したい、けど、なんと言ったらいいのかわからない。
ずっと近くで見てきたつもりだったけど、本当にそれはつもりだったのかもしれない。