第26章 11月
ギュッと噛み締めてしまった唇が切れて、口内に血の味が広がった。
前半は誠凛リードで終わった。
アリスはブザーと同時に席を立つ。気が付いたら控え室に続く廊下を走っていた。
『…ダメだ。』
朝は言われるままに入れたそこに、今は入れない。
中で火神が暴れてる物騒な音が聞こえたけれど、自分には彼を止める資格はない。
アリスは静かに踵を返した。
何故か涙が溢れ出して止まらない。
「…お前が泣いてどうすんだよ。」
『青峰君。』
わざわざ控え室近くのトイレに来ていた青峰は、泣きながら歩いてくるアリスに心臓を鷲掴みにされる。
「お前が泣いても試合は変わらねぇよ。」
『…でもっ、あんなの…。』
よしよし、と頭を撫でてくれていた手に力が込められポスンと不器用に青峰の胸に押し付けられた。
「テツを怒らせたアイツ等の負けだ。」
そうだね、と言いながらもアリスは泣き止むことが出来ない。
大事な人達が戦ってるのに何も出来ない自分が情けないと、ハーフタイムが終わるギリギリまでアリスは泣き止む事が出来なかった。