第26章 11月
初めて黄瀬と出会った時から、その人懐っこさも変わらない。
「まぁ、そうっスね。前よりバスケが楽しくはなったっスよ。」
ね、と黄瀬はアリスにウインクをした。
きっと変えてくれたきっかけがあるとしたら、それは黒子とアリスだ、と。
後半も激しい点の取り合い。
コートの中の選手達の必死さがヒシヒシと伝わって来る。
だから観客達の熱も上がる。
点差は無いも同然。
黒子の新技が炸裂し、ずっと一緒に練習してきたアリスはその威力を知っていたから、上手く決まれば誰にも止められない事も知っていた。
「あー!無性にバスケがやりたくなってきたっス!」
『そうだね、こんな試合見せられたらね。』
試合はそのまま均衡状態でラスト2秒。
フリースローを得たのは誠凛。
木吉がフリースローラインに立つ。
『…ダメだ。きっと外す。』
アリスの小さな呟きを聞き逃さなかった二人が「え?」と彼女を見る。
ボールは放たれたばかりなのに、結果はその通り。
火神と緑間の空中戦も試合終了のブザーで終結を迎えた。
「…引き分け。」
会場からは鳴り止まない拍手が選手達に贈られていた。
「行かなくていーんスか?」
『涼太いつもそれ言うよね?』
アリスが自然に黄瀬を下の名前で呼んでいることに桃井は目を丸くする。
「きっと黒子っちも火神っちも来て欲しいって思ってるっスよ?」
『だからって……ん?』
ポケットの中で震えるスマホ。
立ち止まりそれを確認するアリスの顔が青くなっていく。
「どうかしたんスか?」
『さつきちゃん、涼太、またね!』
アリスはそう言うと慌てた様子で走って行く。
観客達が既にはけて空っぽになった会場は、静まり返っていて怖いぐらいだ。
『にーごぉー?』
メッセージの相手は黒子からで、控え室にいたはずの2号が居なくなった、と送られてきたのだ。
試合の時は学校で留守番しているはずなのに、何故今日は連れて来て居たのだろうか。
「アリス!来てたのか!」
『それより2号は?』
同じく2号を探していた火神と会ったアリスは、泣きそうな顔をしていた。
「まだ見つかってねぇよ。」
『私、外も見てくる!』