第26章 11月
ウインターカップ都予選ベスト4決定戦。
丞成相手に最初の勝利を得た誠凛バスケ部。
観客席から試合を見ていたアリスは、火神の動きが大きく変わっていることに気が付いた。
『タイガ、凄い。』
その後も泉真館戦に勝利、決勝へと勝ち進んだ誠凛は秀徳との試合に臨む。
秀徳には緑間がいる。
それにずっと一緒に練習してきた黒子の新技はこの日の為のものだ。
授業をサボり、会場に駆けつけたアリスは観客席から彼等の姿を探す。
負けるとは思ってはいない、けれどやっぱりちゃんと自分の目で見ておきたい。
客席はほぼ満員状態。
キセキの世代と言われるプレイヤーがいる学校の試合ではよくあることだ。
『頑張ってね。』
ここからでは聞こえないのはわかっている。
けれどその言葉は自然に口に出た。
試合開始のブザーが鳴り、会場の温度が一気に上がる。
それまでザワザワしていたのに、両チームの緊張が痛い程に伝わってきた。
応援の声、少しでも情報を得ようと必死に試合を見つめる視線。バッシュのスキール音。ボールがネットを揺らす音。
夏に見た時よりもはるかに精度の上がっているスリーポイントシュートが決まる。
しかし、取られた分は誠凛もきっちり取り返していた。
それでも秀徳が有利に試合が流れている気がした。
「あれ、アリスちゃん!」
「アリスっち!」
背後から聞こえた声は、黄瀬と桃井だった。
来てると思ってたっス!と黄瀬は嬉しそう手招きしている。一緒に見よう、と。
『二人も見に来てたの?』
「そりゃこんな面白い試合、見逃せないっスよ。」
黒子はベンチに下がっているが、誠凛の勢いは止まらない。
取って取られてを繰り返し、見ているだけの観客達はハイスピードな試合展開にどんどん盛り上がっていく。
勢いはそのまま、前半は誠凛リードで終えた。
しかし、後半開始早々に緑間のスリーポイントが決まり逆転されてしまう。
『変わったねー、緑マッチさん。』
「うん、変わったねー。」
どこが?と不思議そうな顔をする黄瀬に桃井とアリスは顔を見合わせて笑う。
「きーちゃんも変わったよ。」
『そうなの?』
中学時代の事を知らないアリスからしたら、黄瀬のプレイスタイルは変わっていない気がする。