第25章 10月 Ⅳ
「やっばい、本気で誰にも渡したくないっスね。」
後夜祭にも顔を出して、黒子や火神にも会って行こうかと思っていたが、もし、彼等と親しくするアリスを見てしまったら自分を止められそうにない。
だから今日はこれでおとなしく帰ろう、と黄瀬は駅へと足を向けた。
学校に戻ったアリスは教室へ向かう。
片付けはほぼ終わってしまっており、コスプレ姿のままのクラスメイトが集まっていた。
「アリス、どこ行ってたんだよ!」
何回電話しても出ないで!と詰め寄って来た火神に、アリスは苦笑い。
「はやく着替えましょう、後夜祭始まりますよ。」
まだ衣装のままのアリスは、荷物を持って更衣室へと向かった。
スマホを見れば火神から沢山の着信があった通知がたまっていた。
その中に桃井からのものがあり、すぐに折り返す。
『ゴメン!さつきちゃん、まだ間に合うかな?』
「いいの?」
『当たり前じゃない!すぐに迎えに行くね!』
アリスは着替えずに更衣室を飛び出した。
正門前に立っている桃井を見つけ、はやく!と彼女の手を引く。
誠凛の制服で黒子と後夜祭に参加したい、桃井はそう言ったのだ。
『こっち!ここなら人目につかないから!』
更衣室まで戻っている時間はない。
校舎裏の死角、制服の入ったバッグを桃井に渡したアリスは、周りに気を配る。
「どう、かな?」
『大丈夫!可愛いよ!』
アリスはそう言うと校庭への近道を走る。
「っ!お前まだその格好かよ!」
自分のクラスが集まっていた所に合流したアリスは、黒子の姿を探す。
『私はいいの。それより、黒子君!』
火神はアリスと一緒に着た見慣れない女子に「お前…?!」と驚いていた。
「アリスさん、まだ着替えてなかったんですか?」
「テツ君!」
二人が会えれば後はもうどうでもいいや、とアリスはそっとその場を離れた。
そう言うことか、と火神もこっそりその場を離れる。
「お前の制服だろ、あれ。」
『そう。さつきちゃん、本当は誠凛に来たかったんだよ。』
だからこんな機会でないと出来ないでしょ、とアリスは笑った。
しかし、まだアリスの格好のままのアリスは目立ちだって仕方がない。