第25章 10月 Ⅳ
けれどそれから大好きだった彼とも会わなくなり、バスケも取り上げられてアリスは日本に逃げ帰って来たと言った。
「…アリスっち。」
『怖かったんだ、大好きなバスケで好きな人達が変わってしまう事が。だからもうバスケはやらないって思ってたけど。』
「大丈夫っスよ、元カレがどんな奴か知らないっスけど。アリスっちの周りにいるのはソイツとは違うっスからね!」
『そうだね。それにやっぱり私はバスケが好き。』
なんでかなぁ、黄瀬君に聞いてもらったらスッキリしちゃった、とアリスは笑顔を浮かべた。
「ねぇアリスっち。」
『なに?』
「いつか俺の事、好きになって。」
黄瀬はそう言うとアリスを抱きしめた。
それはその場で彼女から明確な返事をされたくなかったから、彼女がどんな顔をしているのか見たくなかったから。
すっぽり自分の腕の中に入ってしまう小さな彼女は、少し力を込めたら壊れてしまいそう。
「そろそろ帰りましょう。」
『黄瀬君、ありがとう。』
「別にいいっスよ。なんせ俺は寂しがりのアリスを迎えに来たハートのエース!なーんてね。」
脱いでいたエプロンドレスを着直したアリスは、ポケットに入ったままのカードに気が付いた。
そういえば、このカードの対はどうなったのだろうか。
「アリスっちも持ってたんスね、それ。」
俺も渡されたたんスけど…と黄瀬もブレザーのポケットからそれを取り出した。
『あ。』
「同じ絵っスね!」
こんな事あるんだ、とアリスは驚いてしまう。
自分のそれは黄瀬の持っていたカードと同じ物。
折角だから思い出に持ち帰ろう、と黄瀬は嬉しそうにカバンにしまい込む。
それを見たアリスは、カードの事は黄瀬には内緒にしておこうと思っていた。
『き、…。涼太!』
「?!」
『今日は本当にありがとう!』
アリスは満面の笑みでそう言うとフワフワの水色を翻し走って行ってしまった。
彼女の姿が見えなくなってもしばらく、黄瀬はその場を動けない。
「…ホント、マジで。」
呼んでほしいと何度もアピールしていたのは自分だったが、いざ、呼ばれるととんでもない破壊力だ。
頭のてっぺんから焼けた串を突き刺された様なそれは、憧れなんて言葉では足りない。