第25章 10月 Ⅳ
文化祭二日目も終盤。
各クラス、部活のブースも片付けが始まり後夜祭の準備が進む。
カップリングゲームの勝者がそこで発表されるのだが、今年も実行委員会に勝者の報告は届いていなかった。
黄瀬と抜け出したアリスは、校外のストバスコートで遊んでいた。
「やっと元気になったっスね!」
『え?』
コート横のベンチにはドレスとグレーのブレザーが置かれていた。
「昨日、初めてアリスっちとバスケやって思ったんスよ。やっぱバスケは楽しい!って。」
ポンポンとゆるくドリブルをしながら近付いてきた黄瀬に、本能的にディフェンス体勢になるアリスは肩で息をしている。
何度目の1on1だろう。
黄瀬はまだまだ余裕の表情だが、そもそも基本スペックが違いすぎるのだからアリスばかりが疲れてしまうのは仕方がない。
「アリスっち、これからも時々俺とバスケやりません?」
今日はこのぐらいかな、と黄瀬はボールを抱えた。
『ねぇ、黄瀬君。』
「なんスか?」
『黄瀬君はずっと変わらないでいてね?』
なんスか急に?と言いながらも、元気がなかった理由はそれか、と黄瀬は溜息。
「青峰っちとなんかあった?」
『みんなそう言うのね。』
「そりゃ、バレバレっスからね。」
『それはみんなの勘違いだよ?』
アリスはクスクス笑う。
『アメリカにいた時にね、初めて好きになった人がいたの。彼ともよくバスケして、いっぱい笑って。凄く楽しかったんだ。』
「妬けちゃうなぁ、アリスっちの元カレとか。」
自分の事を積極的に話すアリスは初めてだ。
『中3の夏、私は彼に初めて勝った。凄く嬉しくてやっと彼と並べたと喜んだよ。』
「バスケで?」
『そう。でもそれをきっかけに彼は変わっちゃった。変えちゃったのはきっと私。』
アリスが言っているのはきっと才能の開花のタイミングの話だろう。
黄瀬も経験がある。ある日突然、今まで出来なかった事が簡単に出来るようになる。
それにそれは身近にいた人達にもほぼ、同じ時期に起こっていた。
「それでバスケやめたんスか?」
『ううん、やめたのは事故で手を怪我しちゃったから。』