第3章 4月 II
耳に当てなくても室内に響く様な大声。
「どこって…。」
なんと説明したらいいものかと考えている内に、向こうが話を進めてくれた。
ちょっと走ってくると伝えただけで家を出て来たせいで、まだ帰らない事を母親が心配しているらしい。
「おば様心配してるわ!!」
雨がやんだら帰る、と伝え電話を切る。
時計の針はもうすぐ日付を越えそうだ。
『電話、彼女さん?』
まだ濡れた髪を拭きながら戻ってきた彼女は、困った様な顔をしていた。
「ワリィな、彼氏んだろ?」
これ、と自分の来ている服を指差す。
『まさか、パパのよ。あ、パンツは新品だから安心して。』
彼女はそうと向かい側に腰をおろした。
このまま沈黙が続いたら気まずいなんてもんじゃないなと考えていたら、それが伝わってしまったのか彼女はクスクスと笑い始めた。
『災難だったね、ゲリラ豪雨とか。』
日本にはスコールはないはずなのにね、と彼女は笑う。
笑った理由がそれだった事に少しホッとした。
勝手に一人で緊張して落ち着かなかったなんて、絶対に他人に知られたくない。
「最近はよくあるじゃねぇか。」
だから精一杯に普通を装う。
『そうなの?』
日本久々だからなぁ、と彼女はTVのリモコンに手を伸ばす。
天気予報の流れているチャンネルを探しているらしい。
『まだ帰ってきて一ヶ月ぐらいだからさ。あ、もうすぐやむってよ、雨。』
「帰ってきて?」
『そう、アメリカ。ロスにいたの。』
バスケの本場じゃないか、と思わず食いついてしまう。
さっきまでの気まずさは嘘の様だ。
そこから会話は本場のバスケについてで盛り上がった。
こんなに楽しくバスケの話をするのはいつ以来だろうか。
気がつくと時計の針はとっくに日付を越えており、雨も上がっていた。
「やべ、俺。」
『あー、そうだね。気を付けてね。』
玄関まで見送られ、途中でまた降ったら大変だから、とビニール傘を持たされた。
「じゃあな!」
初めてのはずなのに、この感覚は知っている気がした。
彼女に見送られアパートを出てしばらくしてから、濡れた服をいつものノリで脱衣所に脱ぎ捨てていた事を思い出した。
しかし、時間も時間だ。
取りに戻っては彼女に迷惑をかけてしまうだろう。