第23章 10月 II
「アリスちゃん、ゴメン!大ちゃんが勝手に。」
「別にいいだろ、あとで参加費払ってやるからよ。」
だから少し遊ばせろ、と青峰は言った。
まさかこんなメンツでバスケをする事があるなんて、と誰もが思っていたに違いない。
そしてそれを実現させたのはアリスがここにいたからだ。
「ってかアリスっち、バスケ出来るんスね!」
『ちょっとだけね。』
「なら今度はバスケデートっス!」
緊張感の無い黄瀬の言動は更に男達を苛立たせる。
「さつき!お前得点数えとけ。」
ジャンプボール無しで相手にボールを渡した青峰はチラッとアリスを見る。
「お前、もうやらねぇんじゃなかったのかよ。」
『女心は変わるの。』
「まぁせいぜい俺の邪魔はすんなよ。」
桃井の声で始まる簡易的な試合。
審判もいないこの状況では、しっかり判定が出来るのは得点のみ。
その態度同様に公式戦だったら間違いなくファールになる様な力押しのプレイスタイルで男達は威圧的なバスケをした。
しかしそんなプレイが彼等に通用するわけがない。
降旗と一緒にカントク達が体育館に駆けつけた時には、ボロボロになった男達が転がっていた。
「…どういう事なの、これ。」
それに対して彼等はジンワリ汗をかいた程度だった。
「大丈夫です。みんなは何もやってません、普通にバスケをしただけです。」
桃井が動かしていた得点ボードには31対0と数字が並んでいた。
素足に動きにくい服装で、まともなアップもなしでの試合。
ましてチームメイトは即席のメンツ。
それでもここまで圧倒的な差があった。
「全く!今年の一年はやらかしてくれるわ。」
カントクは頭が痛い、とぼやく。
「アリスちゃん、やっぱり凄いよ。」
『そうかな?』
「うん!テツ君とも息ぴったりだったし!」
そりゃ最近、ずっと黒子の自主練習に付き合っているのだから当たり前だ。
「アリスっちー!」
『き、黄瀬君。』
ポスンとすっぽりアリスを抱き締めた黄瀬は、まだまだ足りないともっと遊ぼうとせがむ犬のよう。
それを見た青峰と火神が離れろ!と黄瀬を掴む。
そんなやり取りを見ていた桃井は、どこか懐かしそうな、けれど寂しそうな顔をしていた。