第22章 10月
「もう今日の分はこれで終わりだから。」
『いいの?ありがとう!』
明日もその衣装は使うから汚さないでよ、と言われた。
「アリス、こっちだ!」
大きな狼男がコソコソ隠れながら手招きをしている。
先に抜け出していた火神はアリスを待っていたらしい。
『このまま午後はフリーでいいって。』
「そっか、じゃあ俺達も楽しもうぜ。」
アリスを連れ去ったのはウサギでも帽子屋でもなく、狼男。
耳付きカチューシャは外してしまっていたが、ズボンから生えるフサフサの尻尾は健在で、彼が走ると一緒に左右に揺れていた。
奥に入ったまま出てこないアリスをまだかな、とこちらの大型犬も見えない尻尾を振りながら待っていた。
しかし、代わりに出て来た女子にサインや写真を求められて対応に追われている。
それを鬱陶しいと思いながらも、コーヒーを飲む青峰と「テツ君もいないよぉ」と寂しそうな声を出す桃井。
既に彼等が待つ二人がここに居ないことに気がつくのはもう少し後の事だ。
「二人で先に行くのはズルいです。」
「っ!黒子!」
『ゴメン。』
賑わう廊下を抜けて、人の少ないなんのイベントも行われていない特別教室棟まで来た三人。
とりあえず着替えたいと言う火神とアリスに「宣伝の為に着替えはするな」と、クラスメイトからの伝言を黒子は伝えた。
マジかよ、と心底嫌そうな顔をした火神に今日は他の人もみんな変な格好してるから大丈夫だよ、とアリスは笑って言った。
今だって普通に制服姿の黒子の方がおかしいように感じる。
腹が減ったと言う火神に、とりあえずバスケ部のブースに一度顔を出してから食べ物探しに行こうと決めたのだが、行く道中で既にフランクフルトやおにぎりを買い、もさもさと狼男はそれを頬張っていた。
『まったく。』
「火神君の胃袋はどうなってるんですか?」
既に2、3人分は歩きながら食べただろうに、それでもまだ足りないとボヤく火神に、黒子とアリスは呆れてしまう。
屋外に出ると左右に部活や同好会のブースが並んでおり、そこからもいい匂いがしていた。
「僕達も何か食べますか?」
『私はパスかな。お腹減ってないし。』
あれもこれもと食い荒らす様な火神を見ていただけで自分も食べた様な気になる。