第22章 10月
「さつき、お前勝手に行くな、よ…。」
「ちょ、青峰っち急に止まらないで欲しいっス。」
先に二人が見えていた火神は、黒子のいる裏に逃げ込んでいた。
こんな姿をあいつ等に見られたら何を言われるか。
『青峰君、黄瀬君!』
「えー!?アリスっち、金髪じゃないっスか!めっちゃ可愛い!」
俺、アリスっち持ち帰りで、とサラッととんでもない注文をしながら椅子に座る黄瀬の横で、黙って固まったままの青峰。
「青峰君、そんな所に立ったままは邪魔ですから。とりあえず座って下さい。」
「うぉっ!テツ!!」
「テツ君!」
制服に可愛らしいエプロン姿の黒子に桃井は目をハートにする。
ほら、と黄瀬と同じテーブルに早く座れと促された青峰は、なんでコイツと一緒なんたよ、と愚痴りながらも腰を下ろした。
『さつきちゃんと青峰君が一緒なのはわかるけど、黄瀬君も一緒に来るなんて珍しいんじゃない?』
「たまたまっスよ。」
別で来ていたがここで一緒になっただけらしい。
注文を聞きに行っているアリスを含めて、そこのテーブルだけが異質に感じる。
容姿が整った四人が並ぶと、そこだけは本当に物語の世界のワンシーンの様だ。
他の客達もアリスのクラスメイト達も、その光景に見惚れてしまう。
「そういえば火神っちは居ないんスね。」
『さっきまでいたよ、狼男。』
「火神君は休憩に入りました。」
そうなの?とアリスが不思議そうに黒子を見る。確か火神の休憩は自分と同じタイミングだったはず。そしてそれはお昼からの筈だった。
メルヘンチックに飾らせている教室内の時計に目をやると、時間までまだ一時間はある。
「如月さん、ちょっと!」
『はーい、じゃあ楽しんでってね。』
クラスメイトに呼ばれ、アリスはそう言うと三人に手を振りながらキッチンスペースの中へと消えて行く。
ヒラヒラと水色のエプロンドレスを揺らして小走りに走る後ろ姿は、本当に絵本から飛び出したアリスだ。
「あの人、黄瀬涼太君でしょ?」
『そうです、海常の。』
キッチンスペースにいた女子に接客を代わって欲しいと頼まれたアリスは、ラッキーと即決でその提案を受けた。
どうやら火神も彼女達と休憩を代わってこの場を抜け出したらしい。