第21章 9月 Ⅲ
話があると言ってしまったが、何をどう切り出したらいいのかわからない。
今吉から送られて来た写真も、ついさっきまでここに居たのだろう男のことも、聞きたいことが溜まるばかり。
吐き気に似た苛立ちの様な感情がドロドロと体内を流れている。
『青峰君、何か飲む?』
「あぁ、任せる。」
フワリと香るコーヒーの匂い。
砂糖とポーションミルクを一緒に乗せたトレーを運んで来たアリスは、ソファーに座る青峰へと差し出した。
『それで、話って?』
「お前、この前桐皇に来たのか?」
『うん、ちょっとだけね。今吉さんに呼ばれて。』
ならなぜ、俺に会いに来なかったのかと言おうとして口を閉じる。
『さつきちゃんの制服借りて入ったからドキドキしちゃったの。』
でも楽しかった、と青峰の気持ちなど全く分かっていないアリスは話す。
「なんなんだよ、お前。」
『青峰君?』
近付けたと思っていたのは自分だけだったのだろうか。
そう思うと浮かれていた自分が馬鹿らしくなってくると同時、彼女に対しても怒りの感情がわく。
「嫌なら全力で拒否しろ。」
『なに言ってるっ…?!』
強引に重ねられた唇を割って、熱い舌が侵入してきた。
触れ合うだけのキスならば拒否はしなかったかもしれない。
けれど、それ以上を求められたアリスは、精一杯の力で青峰を押し離す。
「彼氏に悪い、か?」
『なんの話をしてるの?』
濡れた唇を拭いながら、思い切り睨みつけるアリスはきっと怒っている。
「俺が来る前、来てただろ?」
『…鉄朗君は従兄弟だよ。』
「なら今吉さんとはどうなんだよ。」
『どうって。何もないに決まってるじゃない。』
今日の青峰君、おかしいよ?とコロコロとアリスは表情を変える。
今は本気で心配している様な顔で青峰を見ている。
「…この前、俺にくれたんじゃねぇのか。」
小さな金魚鉢の中を優雅に泳ぐ金魚に視線を向けた青峰を見て、何を言っているのか理解したらしいアリスは、うーん、と考え込んでしまう。
『私は青峰君のモノにはなれないよ。』
「なら、なんで拒否しねぇんだよ!」
沈黙が続く。
好きか嫌いかしか選択肢がないならば好きだ、けれど青峰のモノになるかならないかと聞かれたら、なれない。