第21章 9月 Ⅲ
二人は顔を見合わせて笑った。
用意されたのはナポリタンとグリーンサラダ。
そこにオレンジジュースを出したアリスは、テーブルに座るように黒尾を呼んだ。
「美味そう!」
相変わらず料理が上手いな、と黒尾はフォークを手にする。
子供の様に貪る黒尾を見て、アリスは嬉しそうに笑った。
風呂から上がり部屋に戻る。
机に置かれていたスマホが光っていることに気が付いた。
どうせ練習をサボった事を咎める桃井か今吉からだろうと思いながらも、一応確認しようと手にした。
思った通り、メッセージの送信者は今吉だった。
「この前の練習内容、一応伝えとくで。」との文と画像が数枚。
練習内容なんて今更読んだところで何が変わるわけでもないだろうに。
自動ダウンロードで表示された画像に、息が止まる。
そこには桐皇の制服姿のアリスが写っていたのだ。
じっと画像を見てもそこに写る事以上の事は分からないが、それでも目が離せない。
どういう事だ、なぜアリスが桐皇の制服を着ている。
「なんだよ、これ。」
2枚目の写真は見慣れた体育館で見慣れた連中とバスケをしている様なアリスの姿があった。
3枚目は今吉相手に1on1でもしているかの様な写真だった。
真相を知るには送り主の今吉に聞くか、アリスに聞くしかない。
そう思ったらじっとしていられず、家を飛び出した。
直接行かなくても電話をすれば済む事だが、自分で感じるよりももっと動揺していたらしい。走る足もどんどん速くなる。
「じゃあな。」
『叔父様達によろしく!』
見えて来たアパート。
目的の部屋から出て来た男とアリスは親しげに話しており、思わず隠れてしまった。
手を振り歩き始めた男とすれ違う。それは以前、アリスと電車に乗っていた男だった。
インターホンを押すと、すぐにアリスが顔を出した。
『青峰君?!』
「よう、久しぶりだな。」
突然の訪問だから仕方がないのだが、アリスはちょっと困った様な顔をした。
話があると言うと、少し考えてから『上がって』とドアを開けてくれた。
リビングに通されると、あの男の形跡がたくさん残っていた。
アリスは食器の後片付けをしたいと言い、その間を黙って待つ。