第20章 9月 II
まるで見えない糸にボールがつながっていて、その片方を彼女が持って操っているかの様。
右腕の上を転がし首の裏を通って左腕に抜けたボールは、ポーンと高い位置まで上がる。
落下して来たそれを受け止めずにまた腕の上を転がして、背中を通して床に落とすと開いた足の間をタンタンと音を立てて行き来させる。
まさにストリートバスケでよく見られるトリッキーなボールハンドリングのテクニック。
ボールの動きを目で追う事だけでも疲れてしまう様なその動きを、アリスはケロッとやっているのだ。
「もうありゃバスケやないな。」
大道芸やないか、と今吉は言った。
「面白そうなやな、どうや?アリスちゃんからボール取れる奴はおらんか?」
『え?』
「そう怖い顔すんなや、遊びや遊び。」
またとんでもない事を言ってくれたものだ。
こんな事を言われては、挑戦したくなるのは当たり前だ。
やってみたいと次々に挑まれアリスは断る事も出来ない。
『あー!もう、わかりました。』
借物の制服を汚してしまうわけにはいかない、とアリスはおもむろにニットベストを脱ぎ、ブラウスのボタンを外し始める。
突然のその行動に、全員が顔を赤らめ動揺していたが全く気にしている様子はない。
スカートに黒いキャミソールという、露出度の高い動きやすい格好になったアリスは、どうやら色々と吹っ切れてしまったらしい。
「大胆やなぁ!」
『I'm going to play, Come on!』
(遊んであげるよ、おいで。)
アリスはそう言うと今吉を挑発的に手招きした。
本来のバスケットのルールでは違反になってしまうが、兎に角アリスからボールを取れれば勝ちというおかしなゲームが始まってしまった。
対面してわかった、特別に速いわけでもないのに、まるで意志のある生き物の様にボールを操られ手を出せる隙がない。
フェイクに引っかかってしまったり、迂闊に手を出せば彼女の体に触れてしまいそうになる。
しかし、彼女の方はただボールを取られない様にしているだけで攻めようとは全くしてはいない。
本当に彼女は遊んでいるだけなのだ。
「参った、参った、降参や。」
両手を上げて降参のアピールをした今吉に、アリスは安堵の表情。
桃井がタオルを持って二人に駆け寄る。