第19章 9月
それをまた思い出しニヤニヤしながらボールを弄る黄瀬は、表情とは真逆に動きはキレッキレだ。
この好調子がいつまで続くのか不安を笠松は感じていた。
もし仮に、彼女と喧嘩したとか、不仲になったりしたらどんな影響が出るのだろうか。
「黄瀬、程々にしとけよ。」
「わーかってますって。」
次のオフにまたデートに誘ってみようと、全く笠松の忠告を聞いていない黄瀬だった。
マジバを出た三人は、スポーツ用品店に立ち寄ってから駅へと向かった。
改札を通ったところでアリスのスマホが鳴り足を止める。
「どうしました?」
画面を見て困った顔をしている。
『ゴメン、先に帰って。』
ちょっと用事ができちゃった、とアリスは苦笑い。
俺達以外に友達いたのか?とまた、デリカシーのない火神の言葉に『ほっといてよ』とむくれる。
しかし、黒子も同じ事を考えていた。少なくとも自分達との時間より彼女が優先する程親しくしているクラスメイトはいないはず。
そうなるとメッセージの送信者は先の二人のどちらかなのではないか。
「僕達が一緒に行ったらマズイですか?」
『うーん、今回は。ごめん!』
黒子が何を思っているのか察したアリスは苦笑い。
二人の様子にやっと気づいた火神はドストレートに「黄瀬か?」と名前を口にする。
『違うよ!青峰君でもないからね!』
「なら誰だよ。」
もう、面倒臭い!とアリスは怒ってしまう。
『タイガには関係ないでしょ!』
じゃあね!とアリスは今通ったばかりの改札を出て行ってしまう。呼び止めようと伸ばされた火神の手は届かない。
「火神君、あんな言い方では伝わりませんよ?」
君も好きなんでしょ?と表情を変えずに言った黒子の言葉に、火神は耳まで真っ赤になる。
ただの幼馴染だったはずなのに、また一緒に過ごす時間を重ねているうちにそれが変わってしまった。
こんな事になるなら変わったことに気が付かなければよかった。
「黒尾さんかもしれませんし、そんな嫉妬丸出しの顔はやめて下さい。」
「してねぇーよ!」
「してますよ、無意識ですか?」
そう言うお前はどうなんだよ、と返された黒子は相変わらずのポーカーフェイス。
だが、内心は穏やかではない。