第19章 9月
そもそも帰国子女で、ハグとキスが当たり前の挨拶の国から帰ったばかりのアリスには、逆に挨拶ではないキスの意味が分からないらしい。
『ねぇ黒子君も花火見たらシタくなるの?』
「なるかもしれません。」
ただし、一緒に見ているのがアリスだったら、とは言えない。
はぁ…と溜息をつくが、キスされた事自体は嫌がってはいないアリスに、火神の方が怒りの色を強くする。
「お前、もうアイツ等と二人きりで会ったりすんなよ!」
「火神君の意見に賛成です。」
どうして?と首を傾げたアリスに、火神と黒子は大きな溜息をつく。
あの二人の事だ、次に二人きりのチャンスが来たらそれだけで終わらせるはずが無い。
もう一層の事、アリスに無理矢理迫って思い切り嫌われてしまえばいいとすら思ってしまう。
アリスを真ん中に火神と黒子が並んで歩く。
電車に乗る前に駅前のマジバに立ち寄り、山盛りのハンバーガーを火神はどんどん口に運ぶ。
見ているだけでお腹いっぱいになる、と黒子とアリスはドリンクとポテトだけだ。
黒子は大好きなバニラシェイクを飲みながら、隣に座るアリスを横目で見る。
まだ、ぼんやりとした顔でポテトを口に運び、指に着いた塩を自然に舐めとる仕草は妙に官能的に見えた。
「だいたいお前は隙だらけなんだよ。」
『そうかなぁ?』
今だって黒子に観察されてんのわかってねぇだろ?と火神に指摘される。
焦ったのはアリスだけでなく黒子はバニラシェイクでむせこむ。
普段から沢山の人間を見る事でミスディレクションの精度向上の糧としている。
今はたまたまアリスを見ていただけで、他に特別な他意はないと珍しく必至に言い訳をする黒子。
『いくら隙があっても。黄瀬君と青峰君ってそんなに欲求不満なのかな。』
いやいやそこは違うだろ!と火神と黒子は思ったが本人が気が付かないならその方が都合がいい。
なんとなく感じてはいたか、アリスは自分に向けられる好意に鈍感なところがある。
「なぁアリス、virginってわけじゃねぇんだろ?」
『Answer refused!』
「いくら火神君でも今のは酷すぎます。」
引っ叩かれても文句言えませんよ?と黒子は冷ややかな目で火神を見る。