第19章 9月
部活でほぼ毎日顔を合わせてはいたが、制服姿で会うのは久しぶりだ。
始業式が終わり、宿題の提出が済めば今日は授業はない。
基本的に今日はどの部活も活動はお休みで、バスケ部も例外なくそうだった。
マジバに寄って行こうぜ、と火神に声をかけられたアリスは、どこか上の空。
「なんだよ、アリス。」
「朝からずっとこんなです。アリスさん、魂が抜けかけてます。」
明日以降の授業予定が配られ解散となっているのに、席を立とうとしないアリスは、ぼんやりと何か考えている。
「アリスさん?大丈夫ですか?」
『…ねぇ黒子君。日本人の男の子は花火を見るとおかしくなるの?』
やっと口を開いたと思えば、何を言っているのだろうか。
「アリス、終に暑さでおかしくなったか?」
ポンポンと彼女の頭を叩く火神に全く抵抗すらしない。
これは益々おかしい、と火神と黒子は顔を見合わせた。
いつもならば、やめろ!と火神の手を振り払うところだろうに。
「本当に大丈夫ですか?」
『私は、ね。』
そうは見えません、と黒子は言いすてる。
「つか、花火がどうかしたのか?」
『黄瀬君と見に行ったの。花火。』
アリスの話に二人があからさまに嫌そうな顔をした。
『青峰君にも誘われて一緒にお祭りに行ってさ、花火も見たんだよね。』
更に二人は表情を歪ませた。
『凄く綺麗だったし、お祭りは楽しかったんだけどさ。』
日本人の男の子には花火を見たらキスする風習があるの?とアリスは何の他意もなく、本心からの疑問でそう言ったのだ。
「はぁ?!お前っ、しっ、したのか?てか、どっちと?」
どっちとも、とアリスは呟く。
「黄瀬君も青峰君も出来るだけ苦しんで死ねばいいのに。」
淡々ととんでもないダークな言葉を黒子は口にする。
何となくその二人がアリスを気にしている事には気が付いていたが、他校生でバスケ以外に関わりが出来ているとは思ってもいなかった。
『わからないや、何でキスされたんだろ。』
「「え?」」
これはもしかするとアリスは全く分かっていないパターンなのではないだろうか。