第8章 冬に半袖は風邪を引く トド松 途中からトド松side
そのまま床にヘタリとくたばる・・・じゃない、這いつくばる姉さん。
バカだなぁ、アホだなぁ、と心底思いながら布団へと引きずって行く。
重いんだけど・・・
「もうっ、スマホ持ってるからってなんで僕ばっかこんな目に・・・」
「・・・だってトド松、病気になると優しいんだもん。怒るけど・・・」
「え?」
布団に戻り、ぼくから桃のお皿を受け取ると、それを見つめて若干ションボリとした様子で姉さんは言葉を続ける。
「前に六つ子が風邪ひいた時は火炎放射器とか出したり、スプレーを目にかけてきたりとかしたみたいだけど・・・私が風邪ひいたり病気した時はいつも面倒見てくれるもん」
口を尖らせ拗ねたような口調になるとまるでどっちが年下かわからなくなる。
「僕がスマホ持ってたから呼んだんでしょ?」
「違う・・・スマホを持ってるからトド松を頼ったんじゃなくて、トド松だから頼ったんだもん」
・・・・・いがーい!
ナス子姉がしおらしい!しかもらしくない事言ってる?!病気ってスッゲー!!!
「そ、そんな事言ったって僕は騙されないんだからね! もう・・・ほら、早く食べないと温くなっちゃうよ」
ちょっとぼくが特別扱いされたような気がしてそれだけでまた気分がよくなった。ぼくって単純。
姉さんから皿を奪うとフォークに桃を刺し口へと持っていってあげる。
「ちゃんと食べてよ。じゃないと薬飲めないから」
「うん、ありがとう」
普通に口を開けてなんの抵抗もなく桃を頬張る。
やっぱりペットに餌をあげている気分だ。
一つごくりと飲み込めばもう一つ差し出す、また食べる。
「美味しい?」
無言で黙々と食べる姉さんに話しかけると、ヘラリと弱弱しい笑顔を向けてくる。
「うん、食べやすい。ちゃんと冷えてて気持ちいいし・・・やっぱり気が利くね、トド松は」
ふん、別に褒めたってなんも出ないし、出さないからね。
ぼくがあざとくなるのは可愛い子の前と何か目的がある時だけなんだからさ。
今日だってナス子姉にちょっとでも恩を売ってやろうとか裏があったんだけどな・・・
「今日は優しいねぇ、風邪ひくと優しくしてもらえるから・・・そこだけはいいかも・・・」