第56章 【R18】【一松ルート】その後
時刻が深夜に差し掛かる頃、まだ離れたくないとばかりに身を寄せ合う二人を、一匹の子猫がクッションの上からじっと見つめていた。
やがて一つ欠伸をすると、体勢を整え丸くなって眠りにつく。
「ねぇ、結局一松は何で私から逃げてたの?」
「え・・・それ、は」
一松と心が通じ合ったのは、ついさっきの事。
ナス子の質問を聞いてはいたが、それよりも一松は現在窮地に立たされていた。
ナス子からの告白にやっと自分の想いが届いたと喜びを噛みしめていたのだが、半裸の状態のまま理性を失い、貪るようなキスをし、更に押し倒してしまった相手に、自分はどうしたらいいものかと悩んでいるのだ。
一松が覆い被さり体を重ね合った状態で、二人の身体は今も尚くっついたままだが、お互い一向に離れようとはしなかった。
内心焦り出した一松の心など知る由もなく、ナス子は一松の背中に両手を回している。
先程二人交互に入浴も済ませた為か、押し倒した相手からフワリと石鹸やシャンプーの香りが鼻をくすぐった。
こんな時他の兄弟ならどうるすのだろうと想像したくないが、自分がどう動いていいかわからず必死に兄弟達が起こすであろう行動を予測する。
「ねぇ、一松? 聞いてるー??」
「き、聞いて・・・る」
━━━━━━━━━━聞いていない。
他の兄弟達がとる行動を予想したり、自分がどう動けばナス子を怖がらせず尚且つ自分も幸せになれるかと思考錯誤していてそれどころではない・・・。
いや、幸せと言えばもうこの状態こそ自分にとっては幸せなのだが、両想いになれただけでいいじゃないか一松。
これ以上俺なんかが何を望む事があるのだと自分の心を戒め始める。