第35章 危険な香りの温泉旅行 松の本音
夕食を済ませお腹がいっぱいに満たされると、仲居さんが来て食べ終えた食事を下げていく、あまりの満腹感に温泉に行くのは一旦休憩し、一行は部屋の中でダラダラと過ごしていた。
旅行初日から毎夜酒を飲み、どんちゃん騒ぎをしていた六つ子達は最終日の今日に限ってナス子に酒を飲むのを止められて口々に文句を言っている。
「ちぇ~、なんだよなんだよ!一杯くらい飲んだっていいじゃ~ん、ケチ!ケチナス子!」
「そうだよねぇ、せっかくの旅行先で美味しいご飯食べててもお酒が飲めないなんてぼくも物足りないなぁ」
「別にナス子は飲まないんだし僕らが勝手に飲んだってよくない?」
「酒持ってこーい!ボクも飲みたい!!」
「……最後に飲ませてもらえないとかイジメだよねコレ」
「飯は美味かった……美味かった……が、やはり何か物足りなさが残るな。せめて一口だけでも、プリーズ」
美味しい夕食を食べたとしても、酒はまた別なのだろう。
酒を飲めない者側からしたらその気持ちがわからないが、諦めない六つ子達がコソコソ酒を頼もうとしている手をペシリと叩く。
「今日はお酒は飲みません!アンタ達も毎日毎日飲んでる訳じゃないんだしいいでしょ?」
「違うよナス子姉、旅行先っていう最高のシチュエーションにあるからお酒が美味しいんだってぇ」
そりゃ、あの事がなければどうぞお好きに飲んで下さいと言ってやれるが、起きてしまったものはもう消せはしない。
酒というよりも、この六つ子の悪酔いがどこまでヤバいものなのか知ってしまったナス子は黙ってはいられない。
逆に考えてこの最高シチュエーションという場所にいるからこそ悪酔いになった可能性だってある。
「だめです!たまには素面でこうやってお喋りしようよ、ね?!楽しいよ!」
テーブルに肘をつき有無を言わさずニコニコと六人の顔を見回すナス子に六つ子は何を勘違いしたのか、ポカンと口を開けて見当違いな言葉を次々に喋り出した。