第101章 【逆ハールート:短編】彼らの場合
【一松の場合】
ナス子が松野家に移ってから随分と時が経った。
松代も松蔵もせっかくの女性の同棲に期待を抱き、部屋まで作って松野家には今はナス子の部屋もできている。
と、もう逃れられない状況である。
「ふぅ……今日のゲームのミッション終わり! イベントも間に合ったしさすがに疲れたわぁ」
スマホを床に置き畳の上をゴロゴロ転がる。一緒に遊ぼうと思っていた愛猫のミケ子は今は部屋にはいない。
この家に来てから、ミケ子は主人以上に一松にご執心だ。
猫マスターである一松に敵うわけもなく、ハァと息を吐く。
マンションではあんなにミケ子とラブラブだったのに、どこぞの馬の骨にでも取られたかのような、親の気分につまらなそうな顔をする。
コンコンと言う扉のノック音が聞こえ、確実におそ松、十四松でないのはわかった。
「どうぞ〜」
「あ、ゲーム終わったの? ……なんかさ、ミケ子がいたずらして食卓の魚を食べようとしたんだけど……」
「えぇ?! そんな事一度もなかったのにぃ、松野家の皆はミケ子を甘やかし過ぎなんだよ、もうっ」
「俺はちゃんと猫用だったり猫が食べても大丈夫なヤツをやってるけどね」
「一松はまぁ、そうだろうけどさ。うーん、人間の食べ物はあげない方がいいし、オヤツか何か買ってきて、それ以外は与えないでって言った方がいいかなぁ」
「そうだね、それがミケ子の為でもあるし」
会話の主役である本人、ミケ子は今は一松の腕の中。
顎の下をくすぐられて、喉をゴロゴロと鳴らしながら自らの顔を擦り付けている。
「あーあー、モテモテですな旦那。妬いちゃいますなぁ」
そんな姿を見ていると悔しくも羨ましい。
自分だけの……いや、一松と自分の大事なにゃんこだったハズなのに、今はすっかり一松の虜なのだから。
見せつけられている気分だ。
面白くないと思うナス子はつまらなそうな顔で一松の顔を死んだ目で見つめる。